研究課題/領域番号 |
17H04815
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
酒井 恭輔 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (00456831)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光の軌道角運動量 / 光渦 / 多重極子 / 局在表面プラズモン / 多量体 |
研究実績の概要 |
光がもつ角運動量として、スピン(円偏光)に加えて軌道成分が見いだされ、新たな光制御の可能性が議論され始めている。光のスピンと軌道角運動量が、電子の各角運動量に等価であれば物質中の電子の角運動量状態を光により操作することが可能になる。例えば、軌道成分が加わることで、光の角運動量自由度はスピンの±1 に加え任意の整数値に拡張される。これにより、電子遷移における選択律の角運動量保存の制限が変化し、従来は禁制とされた遷移が許容となることが理論的に示唆された。しかし、光の軌道角運動量が電子遷移に作用するには光と電子の波動関数が一致する必要があり、これが当分野の大きな障壁となっている。 本研究では、スピン(円偏光)に加え軌道角運動量も制御した電磁場での新たな電子状態制御の開拓を目指し、電子の波動関数に迫るナノ空間に局在する金属表面プラズモンの角運動量状態を自在に制御するプラズモン反応場の検討を行った。具体的には、電場の起点となる鋭角な端部を複数配置した金属ナノ構造(多量体)が囲むナノ空間の局在表面プラズモンの角運動量状態と、端部の数との関係を検討し、所望の角運動量をもつ局在プラズモン場を形成する金属ナノ構造の設計を可能とした。さらに、ナノ空間の局在表面プラズモンへ効率的にエネルギーを結合させる工夫を検討し、アレイ状構造(プラズモニック結晶)を周囲に配置することで、結合効率を大幅に向上できることも明らかにした。今後は、多重極子遷移を評価するための具体的な反応対象を選定し、それに合わせた具体的な構造作製手法を確立するとともに、作製試料が設計通りの特性を示すのかを評価する測定系を構築していく。これらを着実に進めていくことで、究極的な目標である「光の角運動量で電子の角運動量状態を制御する」物理系を実現していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 多量体における電磁場分布と角運動量制御 鋭角な端部をもつ粒子とそれらの配置を検討し、粒子隙間のナノ空間で電磁場分布を制御する多量体構造の設計を検討した結果、多量体における電磁場分布と角運動量との関係を明らかにした。隙間に局在するプラズモン場の角運動量状態(スピン:sと軌道:l)は全角運動量(j=s+l)を用いることで、粒子の数(N)との間で「2j+1はN以下」という関係をもつことが分かった。例えば、全角運動量j(エイチバー単位を省略)=1のプラズモン場は、粒子数N=3以上で生成し、j=2ならN=5以上となる。粒子端部の曲率半径については、0 nm ~30 nmの範囲では、プラズモン場の角運動量状態に影響を与えないことも確認した。 2. プラズモニック結晶による効率的光反応場の創成 多量体に形成する共鳴モードとコヒーレントに結合する結晶モードをもつプラズモニック結晶構造を検討したところ、j=2の四重極子プラズモン場を形成する四量体については、対称性が近い正方格子結晶を選ぶことで、入射エネルギーを効率的に光反応場へ結合できることが明らかとなった。四重極子プラズモン場の強度は、単一で存在する四量体の場合に比べ、適切に設計したナノディスクプラズモニック結晶を周囲に配置した方が二桁以上大きくなることを数値計算により確認した。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度に明らかにした多量体構造およびプラズモニック結晶構造をもとに、光反応場を作製していく。反応対象として、多重極子遷移の検討を行うためのRb原子を想定し、波長911nmに四重極子プラズモン場を有する構造を設計、作製する。また、散乱スペクトルから作製試料のプラズモン共鳴波長を評価し、所望の特性を持つ試料を実現するまでフィードバックを繰り返す。構造設計にはH29年度に用いたのと同様の解析手法を適応する。試料作製は、電子ビーム描画、金膜スパッタ、リフトオフにより行い、出来映えは走査型電子顕微鏡で確認する。所望の形状の試料を実現するための作製条件を明らかにする。試料評価には、暗視野照明と共焦点系でのスペクトル観察が必要となるので、これらの測定系を構築する。以上により、狙った特性の試料が実現する設計・作製・評価のプロセスを確立する。その上で、反応対象(Rb原子など)を導入し、光学応答を検討していく。
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