研究実績の概要 |
本研究では, 複素幾何/解析の立場から代数幾何的な半正値性と特異点を扱う枠組みの構築を目指し, 代数幾何に現れる正則切断の拡張問題や消滅定理を特異エルミート幾何(特異計量, 曲率カレントなど)の視点から研究する. 2017年度は正則切断の拡張問題および非負断面曲率を持つ多様体の構造について研究した. 拡張問題については, Junyan Cao氏, Jean-Pierre Demailly氏とともに, 正則切断やコホモロジー類の部分多様体からの拡張問題を研究し, 被約とは限らない部分多様体からの拡張定理を与えた. できる限り一般的な状況での定式化を目指し, 正則凸多様体や最良と思われる曲率条件を扱った. 証明では, 部分多様体のスキーム構造を考慮した適切なノルムやBochner-Kodaira-Nakanoの等式の捻れ版を用いて, dbar-方程式の近似解を得て, その近似解をコホモロジーの分離性を用いて適切な解に収束させた. 非負断面曲率については, 近年解決されたShing-Tung Yau氏による断面曲率と有理連結性についての問題を自然に一般化する形で, 非負断面曲率を持つ多様体の構造についての予想を得た. この予想の解決を目指し, 極小モデル理論の仮定の下で, 非負断面曲率を持つ多様体に対する最大有理連結射の像の数値的小平次元が零となることを示した. 証明では, RC-正値性と呼ばれる概念とそこから導かれる最大値の原理を用いた. その応用として, 非負断面曲率を持つ線織曲面の基がトーラスになることを示した.
|
今後の研究の推進方策 |
拡張定理に関しては, 代数幾何(特に双有理幾何)への応用を見据えて, Ohsawa-Takegosiの拡張定理のようなL^2-評価付き(ある種の境界条件付き)の拡張定理を与える方向での進展を目指す. 関数論的な興味として擬凸多様体への一般化も考える. 非負断面曲率の研究に関しては, 今年度に得た結果の技術的な仮定(良い極小モデル理論の存在)を外していく. また, 最大有理連結射を詳細に調べ, 高次元の多様体に対しても(有限エタール射を除いて)その像がアーベル多様体になるかを調べる.
|