研究実績の概要 |
本研究では, 複素幾何/解析の立場から代数幾何的な半正値性と特異点を扱う枠組みの構築を目指し, 代数幾何に現れる正則切断の拡張問題や消滅定理を特異エルミート幾何(特異計量, 曲率カレントなど)の視点から研究する. 2019年度は擬有効な接ベクトル束を持つ射影代数多様体および数値的に半正値な反標準束を持つKLT対を研究した. 成果として, これらの対象に付随するMRC射 (maximally rationally connected fibration)に対する構造定理を確立した. 第一の成果は擬有効な接べクトル束を持つ射影代数多様体に対する構造定理である. この成果は, 1990 年代に確立された滑らかな計量に対する成果の特異計量への一般化とみなせる. Bando-Siuによる (捻れのない) 連接層に対するHermite-Einstein計量の理論を応用し, 非負に曲がる特異計量を許容する連接層の性質を調べた. また, 構造定理の応用として, 擬有効な接べクトル束を持つ極小曲面を完全に分類した. この分類はCampana-Peternellによる分類の擬有効版とみなせる. 第二の成果は数値的に半正値な反標準束を持つKLT対のMRC射に対する構造定理である. この成果はDemailly-Peternell-Schneider予想のCao-Horing による解決のKLT対への一般化を与えるものである. その普遍被覆面も決定しており, Beauville-Bogomolov 分解の一般化とみなせる. 応用として, 小平次元に対するHacon-Mckernan問題を数値的小平次元へ一般化し解決した. これらの証明の核は近年発達が目覚ましい順像層の解析的正値性の理論であり, 本研究はこの理論の発展と応用 を与えるものである.
|