研究課題/領域番号 |
17H04822
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
見村 万佐人 東北大学, 理学研究科, 助教 (10641962)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エクスパンダー / 固定点性質 / 副有限群 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、固定点性質の深化とそれを用いた副有限群の有限生成稠密部分群の研究を行なった。まず、固定点性質では、距離空間上の有限生成群の等長作用に関して変位(displacement)関数の無限遠点に飛ばした際のギャップ条件を課したとき、報告者によって創始された相対的固定点性質の(有界生成条件を用いない)昇級ができることを示した。このことと、フォン・ノイマン環に付随する非可換L_1空間上の変位ギャップ条件がKazhdanの性質(T)から従うという事実から、有限生成・単位的・結合的環上定義された次数が4以上の基本行列群(elementary group)が、可分ヒルベルト空間上のトレース・クラス作用素全体のなすバナッハ空間への固定点性質をもつを証明した。このバナッハ空間は自明なラーデマッハー型をもつため、Lafforgue や Oppenheim らによる既存の手法では固定点性質が証明できないターゲット空間であった。 さらに、このようにして得られた基本行列群の固定点性質を用いることで、副有限群の有限生成稠密部分群の群性質が部分群の選び方に依って著しき変わり得る、ということを示した。この結果を得る過程で、繰越分にて行なった平成31年3月の沖縄青年会館での幾何学的群論に関する研究集会への参加による位相群の有限生成稠密部分群や離散群の自己同型群に関する情報収集から着想を得た。本結果により、従順な群とL_p空間や上記トレース・クラス作用素の空間に固定点性質をもつ群という、有限生成無限群では極めて対照的な群性質をもつ群を共通の副有限群の有限生成稠密部分群として埋め込みことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固定点性質の昇級に関しては、変位ギャップを用いた距離超積を用いない十分条件の発見や可算無限個の部分群からの昇級など、さまざまな知見を得ることができた。特に、前者は、非線型空間でのスケーリングを許した距離超積が非常に病的な空間を産み出すことから、今後の非線型空間をターゲットとする固定点性質の研究にとって意義深いと思われる。例として、有限次元の(局所有界性も仮定しない)CAT(0)立方複体へのRoller境界作用の意味で非初等的な複体作用は、Fernosの結果から上記の変位ギャップ条件を必ず満たすことが知られている。さらに、基本行列群に関しこれらの結果によって得られた固定点性質を、副有限群の有限生成稠密部分群の多様性という立場から応用することも可能になった。以上のような理由から、本研究は当初の枠組みを広げて順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
直角アルティン群の自己同型群に関する固定点性質の研究は、肯定的な方向では元の群が自由アーベル群のとき(したがって、自己同型群が整係数の一般線型群のとき:このときは、この群が実質的に高階数単純リー群の格子であることから、直角アルティン群の理論とは独立に様々な研究が行なわれてきた)を除いて新しい研究が近年まで行なわれていなかった。しかし、近年、計算機を用いた手法によって、Kaluba・Nowak・小澤登高らによって非可換自由群の自己同型群の性質(T)が階数が5以上の場合に示され、分野に大きな衝撃をもって迎えられた。本研究での主眼となる相対的固定点性質の昇級では、運用上予め相対的固定点性質を得る必要があるが、固定点性質をもつ群を部分群として含むならばその部分群に対し相対的固定点性質をもつ。このことを利用して、上記の結果を特定の条件下での直角アルティン群の自己同型群の固定点性質に昇級することを目標とする。また、有限体上の有限生成代数上定義された基本行列群が一様凸バナッハ空間に固定点をもつかどうかは、2元生成以上では未解決である。このことが証明されると、これを用いて共通する副有限群の、極めて対照的な群性質をもった有限生成稠密部分群の族を構成することができることを報告者は示している。このような問題にも本研究による寄与を計画している。
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