本研究では、結合的な環上で定義された基本行列群の固定点性質に関し、群の剰余的有限近似の観点からの研究を推し進めた。具体的には、有限群の列とその生成集合の列に対し、有限群の列は不変なまま生成集合の列を変えることで、できるケイリーグラフの列の性質がどのように変わりうるかを研究した。群の列が固定した有限体上の特殊線型群でその次数が 4 の倍数であるものを考えるとき、生成系によってはマーク付き有限群の極限群が従順群で、さらにランダムウォークに関する Liouville 性をもつことを示した。(Liouville 性に関しては田中亮吉氏(京都大学)との共同研究に基づく。)一方で、与えられた有限生成な剰余的有限群に対しその有限体上の群環を係数とする基本行列群の商群としてこれらの有限群を実現できる。固定点性質の研究から、この商群の構造によって定まる生成系の列を取ると、できるケイリーグラフの列はヒルベルト空間をはじめとするよい幾何を持つ距離空間に対しエクスパンダー性をもつようにできる。これらの構成を用いて、共通する副有限群上の離散群の極小作用で、性質が全く異なる可換な 2 つのものを構成することができた。特に、非常にワイルドな群(例えば、Guoling Yu の性質 A をもたない群など)で剰余的有限となる群の存在が知られているので、この構成の剛的な方の作用にこのようなワイルドな群を組み込むことができる。一般に有限次元のユニタリー群ではその稠密部分群の抽象群としての性質があまりにワイルドになることはないことが知られており、上記の現象は同じコンパクト群でも全不連結な位相群であることが効いていると考えられる。
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