研究課題/領域番号 |
17H04825
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米田 剛 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (30619086)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Navier-Stokes方程式 / Euler方程式 / zeroth law / 非適切性 / 竜巻型流れ |
研究実績の概要 |
様々な流体物理現象の数理的理解を飛躍させるために、乱流モデルといった近似化モデルを極力使わずに、Navier-Stokes方程式やEuler方程式そのものを使った数学的洞察を進めている。特に流体運動特有の非線形相互作用に着目している。そういった非線形相互作用は、乱流物理研究分野では「渦粘性による乱流変動の近似」が主流となっているが、数学サイドではその非線形相互作用を一切近似化することなく、あくまでノルム評価で対処するのが主流である。例えば、3次元乱流のエネルギーカスケードに対する研究において、フーリエ級数展開されたNavier-Stokes方程式の非線形項の三波相互作用に対する統計的洞察が進められている(例えばOhkitani-Kida Phs. Fluids, 1992)。一方で、数学サイドでは「Littlewood-Paley分解」を使った非線形項のノルム評価によって、その三波相互作用の数学的洞察が進められている。一見すると、全く別の研究のようにみえるが、扱っている対象は同じ「非線形相互作用」である。このような数学・物理二つの研究分野の「非線形相互作用に対する洞察方向の隔たり」が、本研究の主要な着目点である。まとめると、流体運動を記述するNavier-Stokes方程式やEuler方程式を一切簡略化することなく、物理分野でまだ見出されていない様々な流体現象の解明を(数学解析を軸に)目指している。Clay財団の未解決問題と密接に関連している「流体方程式の適切性」の研究に従事していた者が、流体物理現象の解明に挑むという着眼点は今までほとんどなく、独創的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で、zeroth lawと瞬間的な渦伸長が関係することを示すことができた(韓国のKIAS所属のIn-Jee Jeong氏との共同研究)。Zeroth lawとは、乱流が乱流であるためのcornerstoneの一つであり、特にOnsager予想の起源となっている。しかしながら、このzeroth law自体の数理的理解を目指す研究は今まで皆無であった。それが可能になったのは、Bourgain-Li(2015)やKiselev-Sverak(2014)等によるEuler方程式研究のbreakthroughが起きたからであろう。それら最新の数学解析手法を駆使することで、修正版のzeroth lawを満たすNavier-Stokes流(瞬間的な渦伸長を生成する流れ)を構成することが出来た。
また、工学的な要請から、竜巻型流れの物理学的研究がある程度進んではいるが、それらはあくまで乱流モデルを用いたものが主であり、3次元Navier-Stokes方程式そのものを使った研究は皆無であった。そこで、Notsu-Hsu-Yoneda (JFM 2016)では、flatな滑りなし境界条件を考慮に入れた軸対称Navier-Stokes方程式を使って竜巻型流れの数値解析を進めており、回転軸がflatな境界に刺さっている付近で流体速度が上昇し、同時に渦度方向も乱れるという、今まで誰にも知られていなかった新しい流体現象が発見されている。そこで本研究では、微分幾何学的手法を使って、軸付近の渦度自体が、その流体速度及び渦度それ自体を不安定化させるという極めてspace-localなメカニズムがあることを解明した(U. of Pennsylvania所属のLeandro Lichtenfelz氏との共同研究)。
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今後の研究の推進方策 |
実際のzeroth lawを満たすNavier-Stokes流を構成する為には、大規模数値計算によるNavier-Stokes乱流の最新研究結果:Goto-Saito-Kawahara(2017)を考慮に入れないといけないだろう、と予想している。現時点では、scale-locality、渦のspace-filling、そして、そのNS乱流の素過程を駆使することでKolmogorovの-5/3乗則を導出することができている。従って、そのような洞察に基づいて、実際のzeroth lawを満たすNavier-Stokes方程式の解を構成することが、今後の研究の推進方策となるだろう。
竜巻型流れに関しては、今後はその回転軸自身が歪んでいる場合や境界が曲がっている場合などの3次元Navier-Stokes方程式の数値シミュレーションを進め、それらに対する微分幾何学的洞察を深めていく。
上述のzeroth lawや竜巻型流れは、非線形性が卓越している典型的な流体運動である。ただ、そのどちらも「ノルム不等式における下からの評価」に準拠しており、長時間挙動の解明には適していないと思われる。そのような視点から、そういった非線形性が卓越した流れ(特にEuler流)の長時間挙動を、リーマン幾何の微分同相群のアイデアによって詳しく調べる。より具体的には、C^1に埋め込まれるソボレフ空間による微分同相群から生成される無限次元多様体がその洞察の出発点となる。その多様体上の測地線がEuler方程式の解となることが広く知られている(V. I. Arnold, 1966)。そして、その多様体の共役点のありかたを深く洞察することがカギとなるであろう(幾何学サイドでも、共役点のあり方を調べることは、多様体の大域的構造を調べる際に重要である)。このような解析手法も念頭に置くことが、今後の研究の推進方策となる。
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