すばる望遠鏡Hyper Suprime-Camの広域探査データから遠方クエーサー候補天体を抽出し、天体同定のためのスペクトル測定を実施した。この測定のために、スペイン領カナリア諸島に設置された大カナリア望遠鏡のOSIRIS分光器をキューモードにて使用した。得られたデータの解析から、新たに多数の遠方クエーサーを発見することに成功した。前年度までに蓄積された天体と新規発見天体を組み合わせ、遠方宇宙における数密度の測定を行なった。そのためには、探査の完全性、すなわち実際に遠方宇宙に存在するクエーサーのうち、何%を探査によって捉えられているかを、赤方偏移と光度の関数として計算しなければならない。そのためには人工的なクエーサーモデルが必要であるため、Sloan Digital Sky Surveyで観測された赤方偏移3付近の高光度クエーサー300天体ほどのスペクトルを抽出し、赤方偏移6以遠で予測される銀河間空間の吸収などを加えることで、モデルスペクトルを作成した。これをHyper Suprime-Camの画像に埋め込み、擬似観測・データ抽出によって、完全性の関数を導出した。そのための専用のプログラムをデータ解析ソフトウェアIDLにより開発した。最終的に、この完全性関数を用いて探査による発見クエーサーの数を補正することで、遠方宇宙における真のクエーサー数密度を導出し、光度関数を決定した。 一方で暗黒物質のN体数値シミュレーションと準解析的モデルに基づくクエーサーの進化モデルを構築することで、測定された光度関数の理論的解釈を行なった。また先行する理論モデル研究を基礎として、クエーサーの宇宙再電離への寄与について観測的制限を得ることに成功した。
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