研究実績の概要 |
本研究では、同種三核子からなる新しい原子核系を探索し、その構造を明らかにすることを主な目的としている。特に三重水素(3H)やヘリウム3(3He)に対する荷電交換反応によって三中性子(3n)系や三陽子(3p)系を実験的に生成する。 3n系の探索は、三重水素標的に対して荷電交換(t,3He)反応測定の技術を適用することで実現する。本年度は実験の中核となる三重水素標的の開発を中心に推進した。特にサイズ約1cm2、厚さ10-100μm程度のチタン吸蔵型標的の製作を目指して以下を行った。まず、標的製作方法の探索を行った。ここでは、三重水素の代用として重水素を利用した。製作装置の改良を続けるとともに、製作の際のチタンフォイル温度や重水素ガス圧等を変化させて標的の試作を重ね、最終的な重水素吸蔵量が最大化される条件を探索した。最終的に得られた複数の試料に対して、東北大学CYRICおよびFNL施設において成分分析実験を遂行した結果、重水素チタン原子数比D/Ti=1.7の標的が再現性良く製作できていることが確認された。さらに、今後の三重水素を用いた標的製作の為に、真空系の開発も行った。 上記と並行して、3n系の実験と相補的な関係にある3p系の探索実験を遂行した。事前にヘリウム3冷却標的の製作を行った上で、大阪大学RCNPにおいてヘリウム3標的に対する荷電交換(3He,t)反応測定を行うことで、終状態に形成される3p系の励起エネルギースペクトルを取得することに成功した。得られたスペクトルの分布について、インパルス近似に基づく原子核反応理論計算との比較を行ったところ、3p系は陽子が自由に拡散し崩壊するのではなく互いに相互作用を及ぼし合って存在しているという兆候が見出された。さらに、この実験で得られた知見を基に、3n系探索実験での原子核反応確率の予測精度を向上させ、実験計画の改良に繋げた。
|