研究課題
我々は理化学研究所において、これまで望まれながらも不可能と考えられてきた短寿命・不安定な原子核を標的とした電子散乱実験を目指している。2016年には我々が発明したSCRIT法を用いることで僅か10^7個の原子核(208Pb、132Xe)を標的とした電子弾性散乱実験から原子核電荷形状因子を決定できることを示した。同時に、散乱電子スペクトロメータの運動量分解能が目標値に達していないことも明らかとなった。本研究課題では弾性散乱事象の正確な同定に必須なスペクトロメータ性能改善策として、精密磁場測定及び飛跡検出器のアップグレードを行なっている。29年度は、散乱電子スペクトロメータの前段の飛跡検出器を新しく設計し直し、製作した。材料調達の関係で完成は年末になり、線源や宇宙線を用いた基本性能の詳細な調査は30年度に持ち越しとなった。ただし、十分想定の範囲内であり、本研究遂行に問題はない。また、3軸ホールプローブを用いた磁場測定装置の開発を進めた。実際に我々のスペクトロメータ電磁石内において磁場測定テストを行ない、磁場測定を妨げるプラナー効果の影響を検出することにも成功した。また、これにより3軸測定装置に要求される性能の評価が可能となり、30年度には3軸装置を用いた磁場マップ測定を実施する予定である。9月の日本物理学会において、SCRIT実験に関して、新検出器も含めた将来計画の報告を行なった。また、2018年3月の日本物理学会において、新検出器の開発状況に関して共同研究をしている修士学生が報告した。
2: おおむね順調に進展している
宇宙線を用いた飛跡検出器の基本性能のテストを29年度内に行う予定だったが、完成時期が若干遅れたために30年度に持ち越しとなった。ただし十分想定の範囲内であり、30年度中に理化学研究所のSCRIT電子散乱施設へインストールすることは可能である。
30年度前半には、東北大学電子光理学研究センターの陽電子ビームラインを用いて飛跡検出器の性能評価を行う。理化学研究所の夏のシャットダウンに合わせて理化学研究所のSCRIT電子散乱施設に運び込み、スペクトロメータへ設置する。また、並行して磁場マップ測定装置を完成させ、スペクトロメータ電磁石の磁場測定を実施する。理化学研究所において新検出器を組み込んだシステムの調整及びビームを用いたコミッショニングに数ヶ月かかることが予想されるが、30年度末には電子散乱実験を開始することができると考えられる。
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Phys. Rev. Lett.
巻: 118 ページ: 262501
10.1103/PhysRevLett.118.262501