本研究は、振動分光を用いたラベルフリーの顕微鏡において回折限界を超える超解像の空間分解能を実現する技術を開発することを目的としたものである。本年度は昨年度に開発した3つの振動分光技術を発展させる研究を行った。 赤外分光顕微鏡の欠点である空間分解能の低さをを克服する手法として、赤外フォトサーマル顕微鏡の開発を行った。位相差顕微鏡の試料面に強度変調された赤外レーザー光を照射するシステムを構築し、原理検証実験を行った。マイクロビーズを用いた実験により、赤外吸収による分子振動信号が可視光の空間分解能で取得できることを示し、赤外顕微鏡にとっての超解像特性を得ることに成功した。また、HeLa細胞中のアミドバンドの可視化によるタンパク質の空間分布を得ることにも成功した。 広帯域の赤外分光スペクトルを取得する手法として、フーリエ変換分光法が広く用いられているが、計測速度が遅いという欠点を持つ。昨年度の研究で、近赤外領域の光源を用いて高速スキャンフーリエ変換分光法の原理検証に成功した。本年度はこの技術を赤外領域に拡張する研究を行った。中赤外領域の広帯域パルス光源を作製し、この光源を用いて高速スキャンフーリエ変換赤外分光の原理検証に成功した。 ラマン顕微鏡は可視光の空間分解能で分子振動の情報を得ることのできる手法であるが、ラマン散乱の発生確率が低いことから長時間の計測を要するという問題がある。本研究では、非線形光学効果を用いたコヒーレントラマン散乱を用いることで高速広帯域のラマン分光顕微鏡を製作した。高速スキャンフーリエ変換コヒーレントラマン分光の手法を基にしたレーザースキャン顕微鏡を製作し、マイクロビーズ等のラマン画像を毎秒10フレームのレートで取得することに成功した。また、スキャニングプローブ顕微鏡の仕組みを用いたチップ増強による超解像システムを作製し、原理検証を開始した。
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