研究課題/領域番号 |
17H04853
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 昌司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00731556)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ガラスの物理 / 化学物理 / 統計力学 |
研究実績の概要 |
ガラス転移の平均場理論が近年大きく進展している。しかし現実のガラスは、有限次元かつ、多彩な相互作用を持つため、平均場理論の予言より多彩な振る舞いを見せる。本研究では特に、ポリアモルフィズム・ガラスにおける「欠陥」に注目し、エネルギー地形の構造の観点から研究している。今年度の成果は以下の通りである。 (1)ポリアモルフィズム:短距離引力と長距離斥力からなる系において、低密度のゲル状態と高密度のガラス状態の質的違いを見出した。具体的には、ゲルの振動状態密度に二つのバンドが現れることを見出した。これは一つのバンドしか持たないガラスとは、対照的である。さらに、高周波数バンドは短距離引力、低周波数バンドは長距離斥力に支配されていることが分かった。この結果は、時間スケールに応じて、ゲルが二つの異なる弾性を持つことを示唆しており興味深い。 (2)ガラスの欠陥:昨年度、ガラスには欠陥に付随する局在化した柔らかい振動モードが存在し、それが特異な統計則に従うことを明らかにした。本年度は、この局在化振動モードの空間的広がりを理解することに成功した。具体的には、まず振動エネルギーの空間分布を測定することで、局在箇所が不安定になっていることを見出し、さらにその相関長がジャミング転移において、特徴的なベキ則で発散することを見出した。さらにこのベキ則を用いて、局在化振動をボゾンピークと関連付けることに成功した。これはガラスの欠陥に付随する振動の理解を、大きく進展させる結果である。 (3)ジャミング転移:ジャミング転移近傍における動力学のスローダウンを、エネルギー地形の観点から明らかにした。具体的には、ジャミング転移に近づくと緩和動力学が遅くなるが、この緩和を支配する運動モードを特定し、そのモードの臨界挙動を明らかにすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ポリアモルフィズムの研究では、高密度のガラス状態と低密度のゲル状態について、これまで知られていなかった質的な違いを見出すことに成功した。ガラスの欠陥の研究では、ガラスに特徴的な局在化振動について、その性質を、ボゾンピークと関連付けて説明することに成功した。さらに、ジャミング転移の緩和動力学について、緩和を支配するモードを同定し、その臨界挙動を決定することに成功した。これらの成果は、ガラスの物理の理解を大きく進展させるものであり、当初の予定以上の成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の進展を踏まえて、以下の研究を推進する。 (1)ポリアモルフィズム:ゲル状態とガラス状態の振動状態の違いを踏まえて、両者の力学特性の違いを探究する。具体的には、この系の線形粘弾性を調べる。振動状態の違いから、ゲルの場合は、周波数に依存して二つの弾性が現れることが期待される。これにより、今のモデルにおける、高密度ガラスとゲルの質的な違いを確立し、実験的に検証可能な予測を提示することができる。 (2) ガラスの欠陥:一昨年度と昨年度の研究により、ガラスの欠陥の理解に大きな進展を生み出すことができた。ガラスには、欠陥に付随する局在化した柔らかい振動モードが存在し、それが特異な統計則に従うこと、さらにこの局在化振動モードは不安定なコアが弾性により支えられているという秒像で理解できることを見出している。今年度は、欠陥に起因する破壊の研究を行う。これにより、ガラスの欠陥が生み出す動力学の理解を確立する。 (3) ジャミング転移:昨年度見出したことは、ジャミング転移近傍での動力学は、単一のモードの臨界挙動から理解できるということである。この研究により、ジャミング転移近傍での動力学の解析が極めて単純化された。今年度は、この手法を用いて、様々な空間次元におけるジャミング転移の動力学研究を行う。これにより、有限次元での臨界挙動が、いかに平均場極限に接続するかを調べる。これまで様々なジャミング転移の研究が行われてきたが、常に平均場的な臨界挙動が観測されてきた。しかし今回発見した動力学のスローダウンについては、二次元と三次元で臨界指数に違いがあるため、空間次元依存性を調べることが、特に興味深い。
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