研究課題
温帯低気圧に伴う雲・降水システムの気候学的な研究のため、本年度は衛星データおよび解析ツールの整備、解析手法の再検討、および水蒸気フラックスと雲・降水システムの関係の考察を行った。これまで整備してきた JAXA の GSMaP-GPM および GPM-DPR に加え、NASA の IMERG を整備して降水の検証を行った。その結果、IMERG は全球平均では GSMaP-GPM とよく似た傾向であるが、南北半球間の差異が小さいことが分かった。また、研究コミュニティで共同利用されている COSP(CFMIP Observation Simulator Package)を NICAM データに適用し、妥当な出力が得られることを確認した。これまで、強い温帯低気圧について、地上気温と降水の間に半球および気候によらない関係があることを示してきた(Kodama et al. 改訂中)が、強度に依らず全ての温帯低気圧を解析した場合に関係が崩れてしまう問題があった。そこで水蒸気の可用性を考慮し、海洋上に長くとどまる温帯低気圧(海洋性低気圧)のみを解析対象とした。その結果、全ての海洋性低気圧についても地上気温と降水の間に関係があることを示すとともに、その傾きが海洋性低気圧の強度に依存して大きくなることが明らかになった。温帯低気圧の特徴である warm conveyer belt (WCB) と雲・降水システムの関係については、国際共同研究により NICAM を含むマルチモデルデータを用いて調査を行った。その結果、WCB の水蒸気フラックスは liquid water path (LWP) との間にモデルに依らず強い関係があるが、その傾きはモデルによって大きく異なった。特に対流スキームを用いないモデル群において傾きのばらつきが小さく、衛星観測にも近い傾向であることが明らかになった。この結果は温帯低気圧に伴う雲・降水システムを研究する上で NICAM のような雲解像モデルが有用であることを示している。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要で記述したとおり、全体として目標達成に向かって着々と進捗している。降水データの品質について懸念があったことから更にデータを整備し、これまでの結論が揺るぎないことを確認した。また、当初念頭になかった海洋性低気圧という視点を取り入れることで考察や結論がより明確になった。国際共同研究により、温帯低気圧の解析における NICAM タイプの雲解像モデルの有用性が明らかになったことも当初の予定にない成果である。その分、極端降水および前線に注目した解析が後回しになっており、今後、順次行っていく予定である。
今後も温帯低気圧に伴う雲・降水システムの気候学的な理解という全体目標に向かい、基本的には当初の研究計画書に従って着々と研究を進める。極端風速の解析など、研究開始後に得られた新たな観点を踏まえながら随時、研究計画書を見直す。引き続きモデルデータの国内外への提供を積極的に進め、他の研究成果を取り入れながら本研究の推進を加速する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Atmospheric Chemistry and Physics
巻: 19 ページ: 1147-1172
10.5194/acp-19-1147-2019