研究課題
前期原生代の地層からは真核生物と解釈される形状化石が複数報告される。この時代は全球的に大気海洋が酸化的になった時代とされており、その大気海洋の酸化に応じて酸化還元鋭敏元素の濃度変化が起こったことが期待される。本研究では真核生物が多量に必要とする銅・亜鉛の海洋内における濃度変遷を調べる事を目的としている。当該時代の海洋の痕跡を保存している岩石を連続採取するために、ガボン共和国フランスヴィル地域周辺にて陸上掘削を行った。掘削場所はフランスヴィルから北西に位置するDoume駅の傍で、この地に産するFD層から下位に向かって75m分の掘削試料を採取した。掘削試料の一時的な保管場所であったフランスヴィル・マスク工科大学へと出張し、掘削試料の記載を行った。その結果、掘削試料は主に砂質岩と有機物に富んだ頁岩から成り、所々に炭酸塩鉱物や硫化物に富んだ地層が含まる事を確認した。一方で、現地で作成した粉末試料を用いた予察的な分析に基づくと、炭酸塩炭素同位体比は同時代他地域と同様の値を示した。この事は、この岩石に対する風化変質の影響は炭酸塩炭素同位体比が保存される程度に低く、またこの岩石が全球的な古環境を反映している事を意味する。日本への岩石試料の輸送も終え、次年度に銅・亜鉛同位体比測定を行う目処が立った。また、太古代から原生代最初期の海洋環境情報を得るべく、当該時代の炭酸塩岩を含む表成岩を採取すべく南アフリカ・バーバートン緑色岩帯でも地質調査を敢行した。主に玄武岩やコマチアイトといった火山岩とそれに付随する炭酸塩岩を採取し、日本への輸送を終えた。今後、海洋やマントルの酸化還元状態に関する情報を得るべく、化学分析を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
元々予定していた計画では、2018年度は(1)ガボンの乾季に陸上掘削を行い、日本へ輸送するのと共に、(2)銅と亜鉛の酸分解後のイオン交換による元素単離手法を確立すること、の2つを目標としていた。陸上掘削試料の輸送に関しては2月までに終えることができたが、元素単離に関しては現状目標を達成するには至っていない。具体的には、亜鉛の単離には成功し、亜鉛同位体比の再現性もある程度保証されるレベルまで洗練された。しかし、銅を、同位体比分析時に干渉して妨害元素となる事が見込まれる鉄やチタンと分けるためには2回のイオン交換が必要で、この2回のイオン交換の際に、試料によっては銅同位体比の再現性が確保されなかった。現在、問題点の洗い出しを行っている最中である。一方で、ガボンにおける地質調査の結果を、日本語の雑誌ではあるが論文化する事ができた。その論文内では、Okloの天然原子炉付近の地層中におそらくまだ誰も記載したことの無いThの硫化物を発見することができた。化学組成から考えて、この鉱物も放射線源として、天然原子炉の稼動に加担していたと考えられる。以上の事から、上記の自己評価をするに至った。
今年度の主要な達成目標は堆積岩中の銅・亜鉛同位体比を測定し、化石出現層序前後における銅・亜鉛濃度の復元を行うことである。前年度に日本に輸送した掘削試料からマイクロドリルを用いて粉末試料を作成し、王水にて酸分解を行う。前年度から引き続き、陰イオン交換樹脂AG-MP-1Mを用いて銅と亜鉛を、特に鉄とチタンから分離する手法を確立する。それぞれ単離した銅と亜鉛をUC DavisのMC-ICP-MSを用いて同位体比分析を行う。得られた結果をその他の有機物炭素・窒素同位体比測定結果等と併せ、前期原生代海洋中での銅と亜鉛濃度の変遷を推察する。また、ガボンでの地質調査時に数層準の凝灰岩を発見し、岩石試料を採取してきた。これらからジルコンを分離し、UC DavisにてU-Pb年代測定を行っている。先行研究はコンコーディア曲線から離れた分析点しか得られなかったが、私たちの予察分析においては数粒はコンコーディア曲線上に分析点がプロットされた。これらについても引き続き分析を続け、ガボンの前期原生代地層に対する年代制約も継続して行っていく。これらの成果が得られ次第、順次学会や国際誌にて成果を公表していきたい。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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