研究課題
地球深部でのマグマの挙動を理解するために、高温高圧実験に基づいた様々な研究を遂行した。特に、1)下部マントル上部での溶融現象の解明、2)部分溶融岩石の弾性波速度測定、3)圧力起因の珪酸塩ガラスの構造・物性変化の3つの研究テーマに対して、積極的に取り組んだ。1)下部マントル上部での溶融現象の解明:地震学的に観測されている下部マントル上部での低速度異常を理解するために、同条件下で含水系マントル岩石の溶融実験を行い、その溶融条件を制約することに成功した。部分溶融メルトの組成は低圧条件下で生成されるものと異なっていた。また、生成されたマグマは非常に水に富むことが分かったが、高圧下では水の部分モル体積が非常に小さいため、重力的安定に下部マントル上部に滞留することが分かった。2)部分溶融岩石の弾性波速度測定:地球内部には地震波低速度域が報告されているが、それらの成因として岩石の部分溶融が考えられている。そこで実験的に部分溶融岩石の弾性波速度を測定し、部分溶融度と速度との相関を確認した。地震学的観測データと得られた相関を比較することで、低速度域でのマグマの状態・分布等へ制約を与えた。特にアセノスフェア上部を模擬した実験から、プチスポットで噴出されるマグマのソースを理解する上で重要な知見を得ることができた。3)圧力起因の珪酸塩ガラスの構造・物性変化:地球内部でのマグマの挙動を知るにはその物性を理解することが重要である。ただし、その巨視的な物性は微視的な構造によって支配されているため、物性と構造を対応させて研究することが有意義である。そこでマグネシウム-アルミニウム珪酸塩ガラスの構造と弾性的性質を高圧下で測定し、それらの関係性を明らかにした。高圧下での珪酸塩ガラスの挙動は、特にその組成(重合度)に支配されていることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
主要な3テーマとも、計画以上に研究を進めることができた。1)下部マントル上部での溶融現象の解明:実験的に下部マントル上部での溶融現象を再現することに成功し、そこで生成されるメルトの組成などに制約を与えることができた。加えて、各元素の鉱物-マグマ間の分配に関する新しい知見も得ることができた。これらの成果は地震波低速度異常を理解する上で極めて重要な結果であり、国際会議で発表すると共に国際誌への投稿準備中である。2)部分溶融岩石の弾性波速度測定:アセノスフェア上部の低速度域に着目し、部分溶融度-弾性波速度の負の相関を明らかにすることができた。プチスポットから噴出するようなCO2に富んだメルトに対して、その量や分布を制約することができたため、新たなアセノスフェア構造の描像に繋がる重要な研究成果を挙げることができた。3)圧力起因の珪酸塩ガラスの構造・物性変化:低圧条件下では圧力増加に伴う縦波・横波速度の減少、そしてより高圧側では速度上昇が確認された。その速度上昇はエネルギー分散X線回折実験で得られた構造の高密度化と対応していることが分かり、珪酸塩ガラスの物性変化と構造変化を直接的に結び付けることに成功した。上述した通り、予想以上に多くの研究成果を上げることに成功しており、複数の国際誌への投稿する用意ができている状況である。
計画以上に進展させることができているので、継続して研究を進めていく。1)下部マントル上部での溶融現象の解明:鉱物中の含水量をSIMS等で定量分析することでより詳細な水の分配を決定し、下部マントル全体に含まれている水の量を議論していく。また、酸化還元状態によって溶融条件がどのように変化するのか解明する。2)部分溶融岩石の弾性波速度測定:上部マントル底部などのより深部で観測されている低速度異常を議論するために、より高圧条件下で部分溶融岩石の弾性波速度測定を成功させる。また、部分溶融度に加えて揮発性成分の影響も明らかにする。3)圧力起因の珪酸塩ガラスの構造・物性変化:様々な組成のガラスを用いて系統的に実験を行うことで、化学組成の依存性をより詳細に調べる。また、珪酸塩ガラスだけでなく、珪酸塩メルトに対して同様の手法を適用することで珪酸塩メルトの高圧物性・構造に関する研究を進める。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 14件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 20件、 招待講演 2件)
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