研究課題
現在の地球内部構造の描像や初期地球における化学進化を解明するためには、地球深部でのマグマの挙動を定量的に理解する必要がある。本研究では地球深部でのマグマの振る舞いを解き明かすべく、地球内部環境を再現した高温高圧実験に基づいた様々な研究を遂行した。特に、１）下部マントル上部での溶融現象の解明、2）圧力起因の珪酸塩ガラスの構造・物性変化、3）含水鉱物の高圧下での挙動、の４つの研究テーマに対して積極的に研究に取り組んだ。１）下部マントル上部での溶融現象の解明：生成されるマグマの組成、共存する鉱物との元素分配、酸化還元状態への依存性などを明らかにすることができた。研究成果は国際学会へ発表するとともに、Scientific Reportsにおいて発表し、プレスリリースも行った。2）圧力起因の珪酸塩ガラスの構造・物性変化：パイロープ組成の珪酸塩ガラスの構造と音速を高圧下で測定し、中距離構造と弾性特性の間の関係性を明らかにした。研究成果は国際学会へ発表するとともに、American Mineralogistへ”投稿し、現在改定作業中である。また、様々な組成の珪酸塩ガラスのデータを比較することで、各金属イオンが珪酸塩ガラスへ及ぼす影響を理解することができた。研究成果は国際学会へ発表するとともに、Physics and Chemistry of Mineralsへ投稿しており、現在改定作業をしている。3）含水鉱物の高圧下での挙動：高圧下でのFeOOHの音速を超音波法、構造をX線回折とラマン分光法から調べた。結晶構造中の水素結合の対称化に対応した弾性特性の変化が確認することができ、得られた研究成果は国際学会へ発表するとともに、一部はJournal of Mineralogical and Petrological Sciencesにおいて発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
主要な3テーマとも、計画以上に研究を進めることができた（各テーマの進捗状況は下記に示す）。予想以上に多くの研究成果を上げることに成功しており、多くの国際・国内学会で発表している。また、既に国際誌で2本の論文(Scientific Reports, Journal of Mineralogical and Petrological Sciences)を発表しており、更に2本の論文(American Mineralogist, Physics and Chemistry of Minerals)を改定しており、もうすぐ発表される状況である。１）下部マントル上部での溶融現象の解明：実験的に下部マントル上部での溶融現象を再現することに成功し、そこで生成されるメルトの組成などに制約を与えることができた。加えて、各元素の鉱物-マグマ間の分配に関する新しい知見も得ることができた。これらの成果は地震波低速度異常を理解する上で重要なだけでなく、上下のマントルで予想される化学組成の違いを生み出す原因でもあることを示すことができ、極めて有意義な結果を得ることができた。2）圧力起因の珪酸塩ガラスの構造・物性変化：様々な化学組成の珪酸塩ガラスの実験結果と比較することで、各々の金属イオンが珪酸塩ガラスに及ぼす影響を解明することに成功した。これから、複雑な組成をもつマグマの挙動への理解を深めることが可能となった。3）FeOOHの音速測定：FeOOHの実験的な音速測定は今までされたことがなかったが、本研究で初めて高圧下におけるFeOOHの音速測定に成功した。そして、水素結合の対称化に関連した弾性的特性の変化を観察することができ、地球深部でのFeOOHの挙動に対する理解を深めることに繋がった。
1) 揮発性成分を含む複雑系マグマに対して物性・構造測定を進める。圧力・温度依存性に加えて、単純系マグマとの比較から、組成依存性も解明する。2) 様々な酸化還元条件下でのマントルの溶融実験を実施し、その影響を明らかにすることで、地球内部の酸化還元環境下での溶融現象を調べる。3) 高圧下での含水鉱物の物性・構造・安定性を明らかにすることで、含水鉱物と溶融現象との関連性を議論する。4) 初期地球のマグマオーシャン・核形成の過程や現在の地球の核-マントル境界条件を実験的に再現することで、異なる相が存在する場での反応現象を理解する。5) 全マントル条件のマグマの組成・物性や初期地球と現在のマグマの挙動・分布に対して得られた知見をまとめて、国際誌への投稿や研究成果の発表を進める。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 11件) 図書 (1件)
Carbon in Earth’s Interior, Geophysical Monograph
巻: 249 ページ: 25-36
Scientific Reports
巻: 9:7420 ページ: -
https://doi.org/10.1038/s41598-019-43949-2
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
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