研究実績の概要 |
光化学系II(PSII)では光エネルギーを利用して水分子から電子を取り出す水分解反応(2H2O + 4hv -> O2 + 4H+ + 4e-)を行なっている。本反応は自然界における効率的な光エネルギー変換システムとして極めて重要であり、人工光合成をより発展させていくためにも、自然界が27億年以上かけて改善してきた反応を正確に解明することは非常に重要であり、国際的にも非常に活発に研究がなされている。 PSIIの水分解反応は酸素発生中心に存在する、Mn4CaO5クラスターで触媒される。反応サイクルは5つの状態、Si, i = 0-4状態を経由する(Kok-Joliot cycle)。iは累積酸化数を意味している。暗所で安定な状態はS1状態であり、光を1回づつ吸収するごとに計4回のS状態遷移(S1→S2遷移、S2→S3遷移、S3→[S4]→S0遷移, S0→S1遷移)を起こす。水分解反応に重要な化学反応はS3→[S4]→S0遷移で起こり、本過程にはO-O結合形成、酸素分子放出、水分子挿入が含まれる。 本年度はS3→[S4]→S0遷移での、(1)O-O結合形成過程について、(2)酸素分子放出と水分子挿入過程についてQM/MM解析を実施し、論文化した。また、これまでの反応機構解析の研究をもとに、蛋白質内の複雑反応を解析するために有用な構造探索アルゴリズム(GLAS法)を提唱し、基礎概念を論文化した。本方法では複数のウオーカーを用い、ウオーカー間に反発力をかけていく事で、広い構造空間を網羅することができる独自方法である。今後の反応機構解析に本手法を活用し、理論解明を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に進行している。PSII-OECのO-O結合形成反応として、我々は独自の反応機構であるConcerted Bond Switching (CBS)機構を提唱した。従来のラジカルカップリング(RC)機構では Mn4(↓, IV)-O5(-2) + O6(↓, -1)-Mn1(↑, IV) -> [Mn4(↓, IIII)-O5(↑, -1) + O6(↓, -1)-Mn1(↑, IV)] -> Mn4(↓, IIII) O5(-1)-O6(-1)-Mn1(↑, IV) と反応が進むが、CBS機構では Mn4(↓, IV)-O5(-2) + O6(-2)-Mn1(↑, V) -> Mn4(↓, IIII) O5(-1)-O6(-1)-Mn1(↑, IV)と記述され、O6上の1電子がMn4に移動すると共にMn4-O5間の結合がO5-O6間のσ結合に移動する協奏機構である。CBS機構では高原子荷Mn(Mn1(V))を反応に利用している事、Ca原子はLewis酸として働いており、酸素結合生成前の状態を安定化していることに合致すること、不安定なラジカル状態を生成しなくても反応が進行できることを示しており、O-O結合形成機構の非常に有力な説になると考えている。
|