本年度は以下の二つの内容について、重点的に検討を行った。 一つ目はクロロフェニレン以外の基質に対する二量化反応である。クロロフェニレンに対する反応条件は、他の(擬)ハロゲンを有するフェニレンに対しては、適用が難しいことがわかった。より適用範囲の広い反応を目指し、再度反応条件について検討を行った。その結果、触媒配位子と塩基を変更した条件において、ヨウ素やトリフラートといった(擬)ハロゲンが置換したフェニレンの効率的な二量化反応が進行することが明らかになった。適用範囲は広く、様々な構造の分子を環化的に二量化することができた。得られた二量化体は酸化反応によって縮環し、様々な多環芳香族炭化水素に導くことができた。なおこの反応においては、アラインを経由したと考えられる生成物が得られている。いまだ直接的なアライン発生の証拠は得られていないが、アラインの発生が示唆されており、さらなる応用が期待される。 二つ目はクロロフェニレン二量化反応における位置選択性の検討である。これまでの知見からは本反応の位置選択性は定まらないことがわかっていた。しかし、適切な位置に置換基を有する基質は完全な位置選択性で反応が進行することが明らかになった。様々な基質を合成し、その反応性を精査した。さらにアルキンを有する基質においても、アルキン部位を損なうことなく反応が進行した。この生成物をDiels-Alder反応を用いて、テトラアリールシクロペンタジエノンと反応することによって、ヘキサ-peri-ヘキサベンゾコロネンの完全縮環二量化体に導くことができた。
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