研究課題/領域番号 |
17H04869
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
深澤 愛子 京都大学, 高等研究院, 教授 (70432234)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | π電子系 / 典型元素 / 硫黄 / 反芳香族 / 有機半導体 / 近赤外蛍光 |
研究実績の概要 |
(1) チオフェン縮環部位をもつ反芳香族化合物の集積化:前年度までに,チオフェン縮環部位をもつペンタレンが,かさ高い置換基を導入することなく,高い安定性と強力な芳香族性を両立できることを見出した.この知見をもとに,密な集積構造を形成する反芳香族分子の探索と機能開拓を目指し,種々の側鎖をもつ誘導体の合成および構造解析に取り組んだ.その結果,いずれの誘導体もedge-to-face型の充填構造,またはずれた積層構造を形成することを明らかにし,強力な反芳香族性をもつπ電子系が必ずしもface-to-face 型の積層様式を好んで形成するとは限らないことを示した. (2) チオラクトンを基本骨格とする近赤外発光性分子の創製:前年度までに合成を達成したチオエステル架橋型ジ(2-チエニル)エテンを基本骨格として用い,種々の拡張 π共役系およびπ共役ポリマーの合成および発光特性の評価に引き続き取り組んだ.得られた化合物群の中でも,両端にジチエニルチアゾロチアゾールをもつ誘導体,およびジチエノシロール部位をもつ誘導体が近赤外発光性有機化合物としては高い蛍光量子収率を示すことを見出した. (3) 硫黄を含む中員環でエンドキャップしたオリゴ(フェニレンチエニレン)の物性評価:優れた発光性有機半導体の創製を指向し,硫黄を含む9員環でエンドキャップした種々のオリゴ(フェニレンチエニレン)を合成した.発光性半導体のベンチマーク化合物である無置換のオリゴ(フェニレンチエニレン)が一般に優れた結晶性をもつのと対照的に,得られた一連の化合物は非晶質固体のみを与え,塗布膜でのホール移動度は 10^-5 cm2/V sec と従来の非晶質半導体と同程度の低い値に留まったが,薄膜での発光量子収率は無置換体よりも有意に高いことを見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初に計画した3つの分子設計コンセプトに基づき,初年度に得られた知見を発展させる形で種々の誘導体合成に取り組んだ. (1) チオフェン縮環部位をもつ新奇共役系の創製:種々の側鎖をもつチオフェン縮環ペンタレンの系統的な合成および構造解析を通して,反芳香族分子どうしが空間を介した軌道相互作用により芳香族性を発現するという事象(三次元芳香族性)に対して重要な示唆を与えたといえる.また,当初期待した face-to-face 型の積層構造を形成する誘導体の合成には至っていないが,興味深い積層構造をもつ誘導体も見いだしつつあり,優れた半導体特性や一重項分裂特性などを示す誘導体のさらなる分子設計に対して作業仮説を獲得しつつある. (2) チオラクトンを基本骨格とする機能性色素の創製:ドナー・アクセプター・ドナー型の分子設計は,近赤外領域での発光を実現するための分子設計として広く認知されつつあるが,本研究で見いだした分子系は波長,蛍光量子収率の両面から中でも優れた特性をもつことを見いだしている.また,共同研究により発光材料としての可能性についても検討を進められている. (3) 硫黄を含む中員環でエンドキャップしたπ電子系の創製:発光性有機半導体の創製という観点では現時点で期待したような結果は得られていないものの,当初期待していなかった非晶質性の獲得という特徴を見いだすに至っている.本分子系ではπ共役骨格ではなく共役に関与していない置換基の構造特性により非晶質性を生じているという点で,π共役骨格を大きく捻り長距離秩序を損なうという従来の非晶質半導体とは異なる分子設計であると位置付けられ,基本骨格のさらなる検討により優れた非晶質半導体の創製につながるシーズであるといえる. 以上のように,多角的なアプローチにより基礎科学的に重要な知見を着実に積み重ねており,本研究は概ね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までの知見をもとに,最終年度では基礎化学への貢献および優れた機能性材料としての展開の両面から以下の2点に特に焦点を絞って研究を進める. (1) チオフェン縮環部位をもつ反芳香族化合物の集積化:昨年度までに,チオフェン縮環部位を4nπ電子系に導入することで,かさ高い置換基を導入しなくても高い熱安定性と強力な反芳香族性を両立可能であることを明らかにしてきた.今年度はこの知見をさらに多様な4nπ電子系に適用し,高い反芳香族性に起因した種々の特徴的な物性と,かさ高い置換基をもたないことによる強い分子間相互作用の実現により,光・電子機能の開拓に取り組む. (2) 硫黄を含む中員環の酸化を鍵とするπ電子系の電子構造修飾と機能開拓:昨年度までに,硫黄を含む9員環でπ電子系の両末端をエンドキャップすることで,加熱条件での十分な溶解性と冷却時の優れた結晶性の両立が可能なこと,中員環の立体反発に起因してπ電子系どうしが長軸方向にずれた配向をとること,さらには高い大気安定性を実現できることを明らかにした.本年度は,中員環内の硫黄の酸化によりスルホキシドやスルホンへと変換することで,凝集系でのπ共役系の分子配列や電子構造を簡便かつ顕著に変化させられるかどうかについて検討する. なお,研究代表者は平成30年11月1日付で名古屋大学から現所属に異動し新たに研究室を主宰することになり,研究環境や体制が大幅に変化した.固有の研究設備で行うことのできない物性測定に関しては,適宜学内外の研究者との共同研究にて実施する.これまでの共同研究実績から十分に可能であると考えている.
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備考 |
研究内容および研究成果全般の発信
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