(1) チオフェン縮環部位をもつ反芳香族化合物の合成と集積化:昨年度までに,チオフェン縮環部位を代表的な4nπ電子系であるペンタレンに導入することで,かさ高い置換基を導入しなくても高い熱安定性と強力な反芳香族性を両立可能であることを明らかにしてきた.本年度は,上述の構造特性を生かした分子集合体の構築を指向し,側鎖のチエニル基に親水性のテトラエチレングリコール部位をもつジチエノペンタレンを合成した.得られた化合物はエタノールをはじめとするアルコール溶液中で特徴的なサーモクロミズムを示し,冷却時に吸収スペクトルの顕著な長波長シフトと吸光係数の増大を伴うことを見出した.各種スペクトル測定および理論計算により,冷却に伴いジチエノペンタレンがずれた積層構造を形成することを明らかにした.また,新奇な反芳香族化合物ジチエノジアザペンタレンの合成を達成し,その構造と基礎物性を明らかにした. (2) 硫黄を含む中員環の酸化を鍵とするπ電子系の電子構造修飾と機能開拓:昨年度までに,独自に開発した硫黄を含む9員環(TN)でエンドキャップしたチエニル基が,π共役系の溶解性の向上と分子配列制御に有用であることを示してきた.本年度は,TNの構造特性や電子構造のチューニングを目的に,環内の硫黄の酸化に取り組み,TNは従来のスルフィド類と同様に酸化剤の選択に応じてスルホキシドやスルホンに変換できることを確認した.さらに,光学活性なシッフ塩基を配位子として用いることで,不斉酸化による光学活性スルホキシドの合成を達成した.この不斉酸化では,9員環の反転に起因した動的速度論分割が起こっていることを見出した. (3) 透明な近赤外吸収色素の創出:チオフェン環を部分構造にもつトリアリールメチルカチオン類を合成し,その誘導体の一部が可視光領域に吸収をもたないにもかかわらず近赤外領域に極めて強い光吸収をもつことを見出した.
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