研究課題/領域番号 |
17H04871
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
松本 剛 中央大学, 理工学部, 助教 (40564109)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | モリブデン錯体 / スルフィド / クラスター / メチル化 / 電子移動 / 鉄錯体 / CO2 / 光カルボキシル化 |
研究実績の概要 |
本研究では、非貴金属イオンと電子移動活性配位子(芳香族アミン、芳香族カルコゲノラト、およびカルコゲニド)からなる非貴金属錯体を用いて、「室温で駆動するMeOH脱水素化触媒反応系」の構築と、そこから派生すると期待される「種々の小分子の変換触媒反応系」を構築することを目的に検討を行なった。本系の目的を達成するための鍵は、酸化還元活性な非貴金属錯体において、配位子部位が潜在的に有すると期待される新しい反応性を見出すと当時に、反応に伴う錯体の電子的および分光学的性質の変化を理解する点にある。 その点を踏まえ、2017年度は、二価および三価のモリブデンと、電子豊富なジアニオン性架橋配位子であるスルフィド(S(2ー))から構成される六核クラスター([Mo36S8(PEt3)6])を合成し、それと種々のC1化学種との反応性に関して検討を行なった。その結果、六核クラスターと求電子剤としてのCH3OTfとの反応において、クラスター間の電子移動を伴いながら架橋硫黄上を反応点とする逐次的な求置換反応が進行することを見出した。これは、クラスターとCH3+との反応において電子移動が伴う「カルボカチオン共役型電子移動反応」として興味深い結果である。 一方、上記のモリブデンクラスターの検討と並行して、ニ価の鉄とo-フェニレンジアミン(opda)配位子を有する錯体([Fe(II)(opda)3]2+)を用いたC1化合物の光変換反応の検討として、CO2中での光反応を検討した。その結果、大気圧下のCO2を原料としてopdaのベンゼン環CーHのカルボキシル化が進行し、対応する2,3-ジアミノ安息香酸を与えることを見出した。これは、犠牲還元剤および塩基の併用を必要としない室温大気圧下でのベンゼン環CーHの直接的光カルボキシル化として初の例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、非貴金属イオンと電子移動活性配位子(芳香族アミン、芳香族カルコゲノラト、およびカルコゲニド)からなる非貴金属錯体を用いて、「室温で駆動するMeOH脱水素化触媒反応系」の構築と、そこから派生すると期待される「種々の小分子の変換触媒反応系」を構築することを目的としている。現状、酸化還元活性な非貴金属錯体を用いたMeOHの脱水素化を可能にする光触媒反応系を見出すには至っておらず、進捗は遅れている。しかし、酸化還元活性なモリブデンスルフィドクラスターを用いたC1化合物との反応性検証において、CH3OTfとの反応性により、カルボカチオン共役型電子移動反応という、当初予想していなかった反応性を見出すことが出来た。本系は、配位子上での反応でありながら、その反応において配位飽和であるモリブデンと配位子である硫黄間の電子的相互作用が重要であることを示す結果である。それは、本系が当初目的にしている酸化還元活性配位子を有する非貴金属錯体における配位子上での光化学的ラジカル形成を鍵とするMeOHおよびその他の小分子変換において、中心金属と配位子間の相互作用を考慮し、効率的にラジカル種を形成させ得る錯体の構造および反応場を設計する上で、非常に重要な指針を与える結果であると考える。また、上記知見を活かし、鉄錯体に関して行なったCO2下での光反応においては、犠牲還元剤および塩基フリーな室温大気圧CO2下でのベンゼン環CーHの直接的光カルボキシル化という新しい反応性を見出すことに成功した。上記は、CO2を活用した省エネルギー型反応による有用化成品合成法として重要な知見を与える反応であると考えられ、今後、反応効率の向上と基質汎用性の拡張、および反応の触媒化を目指して検討をさらに進めるべき結果であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、非貴金属イオンと電子移動活性配位子(芳香族アミン、芳香族カルコゲノラト、およびカルコゲニド)からなる非貴金属錯体を用いて、「室温で駆動するMeOH脱水素化触媒反応系」の構築と、そこから派生すると期待される「種々の小分子の変換触媒反応系」を構築することを目的としている。 昨年度得られた結果を元に、非貴金属イオンと電子移動活性配位子の組み合わせを種々検証しながら、MeOHを始めとする種々C1化学種と非貴金属錯体との基底状態での反応性および光化学反応性を精査する。特に、MeOHおよび種々C1化学種との光反応性に関する現状の進捗を考慮し、既に我々が光水素発生反応やMeOH脱水素化反応を報告し実績がある系である、芳香族アミンを有する鉄錯体を用いた光化学反応系をベースに検討を進める。鉄錯体とCO2との反応においては、従来例のない重要な新知見であるため、反応効率の向上と基質汎用性の拡張、および反応の触媒化を目指して検討を進める。その一方で、得られた知見を活かし、鉄以外の非貴金属イオンも対象としながら、MeOHを始めとする種々のC1化学種変換にそれぞれ適した錯体骨格および反応条件に関して精査し、それらを適宜適切に組み合わせることにより、種々のC1化学種を自在に変換し得るとともに、本系で最も重要な対象として据えるMeOHの光脱水素化を効率良く進行させ得る錯体および反応条件を見出すべく検討を進める。
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