研究実績の概要 |
3,3-ジメチルペンタン2,4-ジオンを繰り返し単位とする脂肪族ポリカルボニル化合物を伸長、変換、集積化する技術を確立し、より巨大な構造を持つ誘導体の構造解析に成功した。 脂肪族ポリカルボニル化合物とヒドラジンの反応では、目立った副生成物を生み出すことなくポリイミン化合物へと変換できた。さらに、この化合物を酸化すると、イソピラゾール環がtrans-ビニレン架橋された共役オリゴマーが得られた。単結晶構造解析の結果から、この共役イミン化合物は剛直な直線型構造をしていることが明らかとなった。さらに、脂肪族ポリカルボニル化合物が可視領域に電子遷移に相当する吸収帯を示さないのに対し、共役イミン化合物では、可視領域までπーπ*遷移の吸収帯がシフトしており、黄色から茶色を呈することも分かった。この変換反応は、多分散のポリマー化合物に対しても同様に効率的に進行した。 3,3-ジメチルペンタン2,4-ジオンの8,12,16,20量体といった長鎖オリゴマーの結晶構造解析と隠されたメゾスコピック領域分子ならでわの性質を理解するための手掛かりも発見した。これらの化合物のESI-TOFマススペクトルを詳細に解析したところ、8量体では1つのNaイオンが付加したカチオン種がメインピークとして観測されたのに対し、12,16量体では2つのNaイオンが、そして20量体では3つのNaイオンが付加した多価カチオンピークが高い強度で得られることが分かった。さらに、イオンモビリティー質量分析や量子化学計算を駆使してその挙動を解析したところ、脂肪族ポリカルボニル化合物が長さに応じて異なる数のイオンに巻き付き、コンフォメーションを固めるという事が分かってきた。この現象は、結晶化が困難な長鎖オリゴマーの単結晶を得る上でも非常に重要な知見である。現在はJobプロットを用いた正確なモル比の決定と会合定数の算出を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、脂肪族ポリカルボニル化合物の長鎖オリゴマーである3,3-ジメチルペンタン2,4-ジオンの8,12,16,20量体の結晶構造解析の達成を目指すとともに、そこで得られる構造データをもとにさらなる機能修飾、集合・集積化、新奇反応の開発を行いたい。 Naイオンとの親和性を用いた結晶化では、金属:カルボニル化合物のモル比および相互作用箇所、主たる安定化相互作用の解明をすすめてゆく。溶液中で、Naイオン錯体のコンフォメーションが一義的に制御される溶媒、濃度条件を決定し、それらを用いて単結晶の作成へと展開する。この性質をリチウムなど他のアルカリ金属イオンにも応用し、イオン伝導特性の測定も共同研究を通じて行う予定である。 長鎖脂肪族ポリカルボニル化合物やそのポリイミン誘導体を自己集合させることで、さらに巨大な集積構造を構築することも行う。この取り組みにおいても、柔軟な脂肪族化合物のコンフォメーションを安定かつ構造一義的につくり出すことが必要不可欠になると考えている。これまでに培ってきた構造制御の手法を駆使することで、このような集合体を自在につくり出し、メゾスコピック領域における多彩な有機構造体の創出と構造解析の幅を広げたい。
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