研究課題/領域番号 |
17H04872
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
猪熊 泰英 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80555566)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単結晶X線構造解析 / カルボニル化合物 / 超分子 / 錯体 |
研究実績の概要 |
脂肪族ポリケトンの構造制御に基づく機能性材料への展開を行い、アセチルアセトン誘導体を繰り返し単位とする脂肪族ポリケトンからπ共役色素、発光性配位高分子、リチウムイオン伝導材料を開発することに成功した。 単分散のテトラ、ヘキサ、オクタケトン化合物を用いて、ヒドラジンとの縮合反応と続くp-クロラニルによる酸化反応を行ったところ、2つのカルボニル基間のエチレン架橋がt-ビニレンへと立体選択的に変換された。これにより、共役ポリイミン化合物が得られ、その吸収波長は基のポリケトン鎖の鎖長に応じてレッドシフトすることが分かった。この2段階変換反応を20量体以上の長鎖類縁体を含む多分散ポリケトンに適用したところ、赤外領域にまで及ぶ吸収帯を示す難溶性色素が得られた。 多分散のポリケトンは高いアルカリイオン親和性を示し、リチウムイオン伝導材料に応用できることが分かった。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを40重量%混合したポリケトンは室温付近で3 × 10^(-7) S-1 cm-1 のリチウムイオン伝導度を示すことが、スウェーデン・ウプサラ大のチームとの共同研究により明らかとなった。 また、単分散のオクタケトンから誘導されたポリエン色素は、特異な光転位反応によって、π共役系の切断と再配向が行えることも分かった。4つのカルボニル基が交差共役したドデカヘキサエンは、420 nm以上の可視光を当てることで、ケテン中間体を経て2つのトリエン色素へとπ共役系が切断されることを単結晶X線構造解析を用いて突き止めた。この反応では、アキラルな色素からキラル色素が生成しており、光学分割の後、その励起子相互作用をCDスペクトルによって解析できた。 脂肪族ポリケトンから誘導される脂肪族ポリイミンを用いた研究では、ハロゲン化銅(I)との錯形成からサーモクロミズムを示す発光性配位高分子錯体の合成にも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、有機小分子と高分子化合物の間にあるメゾスコピック領域の巨大分子を合成し、それらの構造解析をもとに反応開発や機能性材料への展開を図ってきた。令和元年度では、単分散および多分散の脂肪族ポリケトンからπ共役色素、発光性配位高分子、リチウムイオン伝導材料といった様々な機能性材料を創出することに成功するとともに、分子集合体などのより巨大な単分散構造を得るための足掛かりも得た。 これまでの結果から、ケトンという単純な官能基でできた鎖状有機化合物であっても、その数と長さを厳密にコントロールすることで、これまで見られなかった化学反応や機能創出ができることを示せたと考えている。これらの成果に関しては、各学会からの注目も高く、既に2報目の総説の招待を著名な国際学術誌のエディターから受けている。 構造的に柔軟な脂肪族ポリケトンの構造制御においては、固体中でのコンフォメーションを単結晶X線構造解析で調べるだけでなく、自由度の高い溶液中において超分子的にコンフォメーション制御することにも成功している。ピラーアレーンと呼ばれる内部空孔を持つ環状分子に脂肪族ポリケトンを導入すると、ロタキサン構造が形成されることで、溶液中での柔軟な炭素鎖のコンフォメーションが直線型に制約を受けることが、プローブ分子を用いた紫外可視吸光分析によって明らかとなった。この結果は、脂肪族ポリケトンのコンフォメーション制御に基づく立体選択的な化学変換反応にも応用できると期待されている。 以上のことから、単分散のポリケトン化合物を主体とする新たな構造有機化学、超分子化学への展開に対する基盤が構築できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらに巨大で分子量の大きな脂肪族ポリケトン化合物を用いて、構造解析および機能化の適用範囲を広げてゆく予定である。巨大なポリケトンの構造制御に関しては、既に複数グループとの共同研究からカルボニル基30個以上を有する長鎖ポリケトンの無機物表面での配向制御実験が進められている。また、理論計算によって溶液中でのコンフォメーションを解析する試みも行っている。最終年度は、これらの結果を纏めて報告できるよう、より詳細なデータの解析を行う。 脂肪族ポリケトンを用いる機能性有機化合物への誘導化では、昨年度に期待以上の成果が得られ、光応答性のπ共役色素、多様な構造を持つ配位高分子、イオン伝導材料など、研究提案時には予測も出来なかった魅力的な材料が次々と生まれはじめている。このような材料開発において大きなメリットとなっているのが、単分散のオリゴマーで詳細な反応条件検討と構造解析を行った後に、多分散ポリマーを使った実用化へと進めるという戦略である。これは、段階的伸長反応と重合反応がともに可能な脂肪族ポリケトンに特異的な戦略である。このメリットを活かし、イオン吸着材料や可視光プローブなどへと展開してゆく計画である。 また、脂肪族ポリケトンを用いたカチオン認識に関して予備的な知見が得られており、その中で環状ポリケトンの重要性が分かってきた。これまでは鎖状ポリケトンに重点をおいてきたが、最終年度は同様の繰り返し構造を持つ環状類縁体も合成し、より高いイオン認識能や芳香環などのπ共役化合物への変換を図りたい。
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