研究課題/領域番号 |
17H04874
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
酒巻 大輔 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60722741)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機ラジカル / 動的共有結合 / 自己組織化 / サーモクロミズム / 近赤外吸収 / 芳香族アミン |
研究実績の概要 |
前年度の研究から、ラジカル体を安定化するためにジシアノメチルラジカルのパラ位に導入したアミノ基のベンゼン環への平面固定が、本研究で扱うラジカルの二量化挙動に大きな影響を与えることが明らかになっている。本年度はラジカルを安定化するための電子ドナーであるトリフェニルアミンをヘテロ原子の挿入によって平面化したラジカルを合成し、その動的共有結合特性を検討した。そのようなラジカルの例として、トリフェニルアミンに一つの硫黄原子で架橋した10-フェニルフェノチアジン、一つの酸素原子で架橋した10-フェニルフェノキサジン、および2つの酸素原子で架橋したジオキサトリフェニルアミン骨格を有する三種類のラジカルを合成した。核磁気共鳴スペクトル、電子スピン共鳴および電子吸収スペクトルの温度依存性から、いずれのラジカルも溶液中でラジカル体と、C-C単結合で連結したσ二量体の平衡にあることが明らかになった。これはアルキル架橋によって平面化したアミノ基を有するラジカルがπスタックした二量体を形成したこととは対照的な結果であり、この種のラジカルの二量化挙動の支配因子はスピンの非局在化度合いだけでなく立体因子などの複合的な要因が関与することが示された。最も興味深いことに、この三種のラジカルは最低エネルギー遷移が大幅に長波長シフトしたことによって近赤外領域に強い吸収を示すことがわかった。特に、2つの酸素原子で架橋したラジカルは可視域にほぼ吸収を持たないため、そのトルエン溶液は凍結状態から100 ℃まで透明でありながら近赤外吸収強度のみが大きく変化するという近赤外サーモクロミック挙動を示すことが明らかとなった。また、これらのラジカルはポリマー中に分散した場合でも加熱によって近赤外吸収強度が増大し、解離したラジカルは高い安定性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度開発した動的共有結合性ラジカルは、可視光に対してほぼ透明でありながら、温度変化によって近赤外吸収強度のみが選択的に変化するという興味深い光学的特性を有する。このような近赤外サーモクロミック色素分子はこれまでほぼ前例がなく、本年度の研究が極めて稀な例を与えたと考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、ラジカルの可逆的な結合生成-開裂反応を基盤とする自己組織化システムの構成要素となるラジカルユニットの開発をおこなう。これまでの研究ではラジカルを安定化させるための電子ドナー基として芳香族アミンを採用していたが、本年度は異なる電子ドナー基でも検討をおこない、化合物ライブラリの多様化を目指す。
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