前年度に引き続き、動的共有結合システムの構成要素となりうるラジカルユニットとしてさまざまな電子ドナーと連結したジシアノメチルラジカルを合成し、その二量化挙動と物性について調べた。本年度得られた主要な結果を以下に記す。これまでの研究においてラジカルを安定化するための電子ドナーとして芳香族アミンを採用していたが、本年度は異なる電子ドナーを導入したラジカルについての検討を行った。多様な集合体構造へと誘導可能な高い構造自由度を有する動的共有結合性ラジカルユニットを指向し、「高い電子ドナー性」と「回転自由度」を併せ持つフェロセンに着目した。フェロセンはその回転自由度を利用して分子マシンやフォルダマーの構成要素として用いられてきたが、動的共有結合ユニットとしてラジカル部位を導入した研究は先例が無い。本年度はまずラジカル置換フェロセンの最も単純なモデルとして、フェロセンに1つのジシアノベンジルラジカルを導入したモノラジカルを合成し、その性質を詳細に調べた。結晶構造解析からジシアノベンジルラジカルを有するフェロセンは固体中でσ二量体を形成していることが明らかになった。溶液状態における吸収スペクトルおよび電子スピン共鳴の温度依存性を測定し、動的共有結合性ラジカルにおける重要なパラメータである二量化における熱力学的パラメータ(結合エンタルピー、エントロピー)を明らかにすることに成功した。その結果、フェロセンを電子ドナーとして有するジシアノメチルラジカルは、カルバゾールを有するラジカルと同程度の結合強度の二量体を形成することが明らかになった。
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