研究課題/領域番号 |
17H04875
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小野 利和 九州大学, 工学研究院, 助教 (20643513)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 包接結晶 / 蛍光 / 燐光 / 酸素センサー / 電荷移動相互作用 / 外部重原子効果 / 超分子化学 / 結晶工学 |
研究実績の概要 |
機能性色素の開発研究において、発光色に加えて発光寿命のデザインも可能となれば、波長軸と時間軸の両者の情報を併せもつ確信材料となりうる。革新材料とは決して真似のできない材料であり、例えば金券、お札、機密書類の偽造防止用のインク(セキュリティインク)への応用が期待できる。これまでに膨大な数の有機分子や金属錯体を用いた波長軸の制御は紫外発光から近赤外発光まで、ほぼ達成されている。一方で時間軸に関しては、ピコ、ナノ、マイクロ秒の領域に留まっており、肉眼で視認できる秒を超える発光寿命材料はほぼ皆無である。本研究では、複数成分の分子の自己組織化を通じて、発光寿命可変材料というべき新規材料の創出を目指し、分子集合体の光化学の学術領域の開拓を目指している。 今年度は、ナフタレンジイミド誘導体に嵩高い置換基を非共有結合、もしくは共有結合によって修飾したホスト分子を合成し、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)を持つ芳香族分子をゲスト分子として、その複合体結晶の調製を通じて発光寿命改変材料の創製を目指した。ハロゲン原子の導入により、外部重原子効果を生じさせることを目的としている。 この複合体結晶に対して紫外光照射により光励起を行うと、フルオロベンゼン、クロロベンゼンでは青色の蛍光発光が生じ、ヨードベンゼンでは赤色の燐光発光が生じた。ブロモベンゼンでは青色の蛍光発光に加えてわずかな燐光発光が生じた。蛍光発光はナノ秒オーダーの発光寿命、燐光発光はマイクロ秒オーダーの発光寿命であった。一般に燐光発光が大気中の酸素によって失活することを利用して、ブロモベンゼンを含む複合体結晶に対して酸素濃度に対する発光特性評価を行ったところ、ppmから%オーダーの酸素濃度に応じて燐光発光と蛍光発光の強度比が大きく変化することを見出し、発光色と発光寿命変化による酸素センサーとして機能することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請内容に示した通り、多成分系分子の自己組織化を用いた多成分結晶の創製を達成し、その中でも用いたゲスト分子の種類に応じて、蛍光発光と燐光発光の発光メカニズムの異なる発光寿命可変材料の創製を達成した。中でも燐光発光が酸素濃度に大きく影響を受けることを利用した酸素センサーへの応用も見出し、一つの成果をまとめつつある。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き多成分系分子の自己組織化を利用した発光材料の創製を目的とする。これまでに酸素センサーとして機能する材料構築を達成しているが、蛍光発光が青色、燐光発光が赤色の二色発光しか達成できていない。今後は組み合わせる分子を様々変化させることにより、蛍光発光、燐光発光ともに発光色と発光寿命をオーダーメイドに制御可能な系を見出したいと考えている。またこの系は酸素濃度に応じて発光色が大きく変化することを示しており、セキュリティインクとして機能することを示しており、その応用に関しても検討したい。発光メカニズムの解明を目的とした計算化学的アプローチも積極的に取り組む所存である。
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