原始的環境において最初の生命であろう原始細胞は、表現型である境界と遺伝子型である生命の情報は密接に連携していたと考えられる。本課題では、原始細胞の境界膜と細胞の組成情報が生命発生時の初期段階で連携しているモデルを構築した。 今年度の課題では、前年度で構築した自己再生産する液-液相分離液滴について、より詳細に評価した。形成後の液滴の自己再生産能を動的光散乱型粒度分布計で評価するために、すでに形成された液滴に液滴の前駆体とジチオトレイトールを添加した結果、新しい液滴分布は認められなかった。一方で20時間ごとの継続的な添加では、液滴の粒径は再帰的に変化していくことがわかった。これらの測定結果は、NMR測定でも同様の結果であった。以上の結果より、一度形成された後の液-液相分離液滴は自己再生産を繰り返しながら、分裂していることを示した。 今年度はさらに、液滴の液-液相分離状態についても顕微ラマン分光法にて液滴内部の組成評価を行った。液滴にやや疎水性のリン脂質、親水性のDNAおよびRNAをそれぞれ添加した結果、液滴の中心部に疎水性の脂質が集まり、外周部に親水性の核酸が集まる傾向にあった。顕微ラマン分光法および、蛍光顕微鏡などの画像解析から、液滴の中心部はやや疎水的であり、外周部はやや親水的であることが確認された。 今年度は、液滴に関する分子設計から合成、観察から、本年度の結果を論文にまとめ、投稿した。
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