研究実績の概要 |
環状のπ共役構造を持つ高分子は、分子運動における対称性の変化、末端基の消失に由来した直鎖状高分子とは異なる性質を有することから新奇物性の発現が期待される。中でも、分子のコンフォメーションとπ共役系の電子分布の関係性を調査することは、無限長の共役を実現する上で有用である。また、導電性高分子において電荷移動体のひとつである励起子の挙動は、電子デバイス応用を志向する上で重要である。 研究実績の概要として、昨年度確立した合成手法により14, 21, 26, 40量体の直鎖状および、環状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)を合成した。SECより求めた分子量(Mn,SEC)は2.2, 2.9, 3.1, 6.4 kg/mol、分子量分散度はそれぞれ1.03, 1.04, 1.05, 1.13であり、分子量依存性の評価に十分な重合制御を達成した。 これら新規に合成した直鎖状および環状P3HTの物性評価として、光散乱法による絶対分子量、粘度、流体力学体積の測定や溶液中での可視吸収スペクトル測定を行い、分子量依存性について評価を行った。さらに、21量体の環状P3HTに対する温度変調蛍光スペクトル測定において、220 Kに降温すると、励起子の非局在化を示唆する0-0遷移禁制化が強まる現象が確認された。また、ラマン分光測定によって、環状P3HTのコンフォメーションの解析を行ったところ、環状P3HTは分子量に依存せず一定のコンフォメーションを取ることが示唆された。さらに、サイクリックボルタンメトリー測定から、分子量が大きいほど環状P3HTの酸化電位が大きくなる傾向がみられた。走査型トンネル顕微鏡による観察では、43量体環状P3HTおいて22量体でみられた像の2倍程度の大きさを示す環状の像が確認された。また、電気化学測定により、直鎖状および環状P3HTの酸化還元挙動の解析を行った。直鎖状P3HTでは酸化反応に伴う多量化がみられたが、環状P3HTは安定な酸化還元挙動を示した。
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