研究課題
これまでに合成法を確立した全共役型環状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)の側鎖に様々な官能基を導入することで機能化を行った。まず、側鎖のアルキル鎖を伸長させた環状ポリ(3-ドデシルチオフェン)を合成し、アルキル鎖長が分子配向性に与える影響を検討した。この実験において全共役型環状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成法を適応することにより、全共役型環状ポリ(3-ドデシルチオフェン)の合成を達成した。走査型トンネル顕微鏡観察から、直鎖状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)と比較して直鎖状ポリ(3-ドデシルチオフェン)は、電子デバイス作製において重要な分子配向性が向上することを見出した。先行研究にて観察を行った直鎖状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)のSTM画像では分子が配列したドメインがいくつかに分かれて観測できるのに対し、同じ実験条件で観察した直鎖状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)ではドメインが非常に大きくなり、分子配向性が向上した。また、分子の間隔が直鎖状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)では1.4 nmであるのに対し、直鎖状ポリ(3-ドデシルチオフェン)では2.1 nmでありアルキル鎖の伸長に伴って分子間隔が広がることが示唆された。加えて直鎖状ポリ(3-ドデシルチオフェン)のSTM画像において、暗部の間隔はドデシル鎖長の1.4 nmとおおよそ一致しており、直鎖状ポリ(3-ドデシルチオフェン)モデルのように側鎖が相互貫入していると考えられる。これらのことからHOPG基板上においては、ヘキシル鎖からドデシル鎖への側鎖の伸長により、分子配向性が向上することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
現在までの進捗状況として、目的であったアルキル鎖長を変化させた環状ポリチオフェンの合成を達成した。さらに、他の官能基の導入の検討も開始している。これは、共役ポリマーの機能化に関して非常に重要な課題である。この応用として、光学特性を調節するために、同一分子内にドナーユニットとアクセプターユニットを有するドナー・アクセプター型分子の構築が考えられる。ドナー・アクセプター型分子に光を照射すると、ドナー・アクセプター間で効率的なエネルギー移動が起こるため新しい光吸収帯が生じる。そのため、ドナー・アクセプター型分子は優れた有機エレクトロニクス材料として期待される。また、同一分子内に疎水部と親水部を有する両親媒性高分子は、水溶液中で自己組織化を誘発し疎水性相互作用に基づくミクロ相分離を引き起こすことなどが知られている。以上の成果の学会発表等を行っているため、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
今後の研究の推進方策として、直鎖状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、および環状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)を用いてナノ粒子を作製し光学的特性などの検討を行う予定である。共役系高分子はその導電性や光・エレクトロルミネッセンス特性などから、光エレクトロニクス分野などへの応用研究が盛んに行われているが、中でも、水中で共役系高分子から形成されるナノ粒子は、有機溶媒を必要としないデバイス製造や蛍光プローブとしての応用が期待されている。これらナノ粒子の光エレクトロニクス特性や電子特性は高分子の凝集構造と密接に関わっており、その制御法はこれまで分子量やナノ粒子作製時の溶媒組成の調整などに限定されていた。これに関し、これまでに確立した構造欠陥の全くない環状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成にに基づき、そのトポロジーに基づいたナノ粒子を形成した際の光学特性や溶解度変化などの特異的物性を検討する。
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