研究課題/領域番号 |
17H04880
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
櫻井 庸明 京都大学, 工学研究科, 助教 (50632907)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フォルダマー / 電気伝導性 / ペリレンジイミド / マイクロ波 / 有機エレクトロニクス / ソフトマター |
研究実績の概要 |
ペリレンジイミド(PDI)と柔軟鎖の交互共重合体を合成し、それらがPDI部位の積層を駆動力とし、希薄溶液中でフォルダマーとして振る舞うことを分光学的に示した。まず、電子吸収スペクトル測定において、PDI骨格の0=>0遷移と0=>1遷移の強度の相対比を調べることで、励起子カップリングモデルを元にした分子間相互作用の程度を評価した。その結果、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とPDIの交互共重合体が、特にTHF溶媒中で0=>1強度が大きくなり、顕著な折り畳み挙動を示すことがわかった。また、加熱によるスペクトル形状の変化が小さいことから、PDI部位は安定に相互作用していることが明らかとなった。蛍光スペクトルにおいても、THF中で最も量子収率が低下しており、PDMS-PDI系については希薄溶液においてもエキシマー発光の存在が観測された。一方で、その固体状態での電荷輸送特性を非接触評価法により評価したが、折り畳み構造が最も形成されていると考えられるPDI-PDMSフォルダマーがポリエチレングリコール(PEG)鎖を有するそれよりも小さな過渡電気伝導度を示したことから、折り畳み部位の存在が必ずしも光電流を生み出すのに最適ではない可能性が示唆された。一方で、PEG-PDIからなる高分子については、PEG鎖の結晶化を駆動力としてPDI部位も秩序構造を形成することが小角X線構造解析により示唆された。実際に過渡電気伝導度測定においても、0.2 cm2/Vsに達する電子移動度が観測され、高い電子輸送性を有することがわかった。すなわち、分光学的に確認できるような短周期で強い相互作用形態の共役積層構造の存在よりも、周期性の高い長周期構造を構築する方が局所電子輸送性には効果的であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
刺激応答性を付与するための分子設計指針という意味では課題を残したが、π共役骨格を組み込んだフォルダマー構造を設計し、折り畳みに伴う電気伝導性を実験的に評価することができたという点で一定以上の進捗を実現したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、ペリレンジイミドと柔軟鎖の交互共重合体を合成し、それらがフォルダマーとして振る舞うことを分光学的に示した。一方で、その固体状態での電荷輸送特性を非接触評価法により評価したが、折り畳み構造が最も形成されていると考えられるPDMS鎖を有するフォルダマーが小さな過渡電気伝導度を示したことから、折り畳み部位の存在が必ずしも光電流を生み出すのに最適ではない可能性が示唆された。しかし、現状の測定では分子鎖間の電気伝導度も含んだ評価となってしまっているため、これの寄与を分けるためには、絶縁性高分子マトリックスで希薄条件を作り出した上で測定を実施する必要があると考える。この絶縁性高分子として弾性を有するものを選択すれば、フレキシブルエレクトロニクスへの応用可能性も検討できると考えている。また、より長距離秩序を有する折り畳み構造を実現するために、水素結合部位の導入も効果的であると考え、新しい高分子鎖の設計を行い、その効果を実験的に確かめたい。マクロモノマーに分子量分布があることで秩序構造の自己組織的な形成に悪影響がある可能性も高いと考えているため、長さの規定されたオリゴマー鎖を用いた交互共重合体の合成も検討していく。
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