研究課題
本研究では,超簡易な多成分分析デバイスの実現に向けて,人工分子レセプタを修飾した有機トランジスタ (OTFT) 型化学センサアレイによる高スループット分析法の提案およびその具現化を目的とする。平成29年は以下の内容に取り組んだ。1) センサアレイ用OTFTの構造最適化:水溶液中に含まれる多検体を検出するためには,デバイスの低電圧駆動化や均一性の確保が重要となる。そこで,電気二重層 (EDL) による共役性分子薄膜への高密度なキャリア注入機構に着目した。電解質水溶液をデバイスの構成要素とするOTFTを作製したところ,極めて小さな印加電圧 (< 0.5 V) に対する非線形電流応答が観察された。また,適用する電解質種を系統的に変化させることで,OTFTの閾値電圧を可逆的に制御することに成功した。これらの結果から,作製した電解質に基づくOTFT構造が,化学センサアレイデバイスの構築において有用であることを実証した。2) 標的種を網羅的に検出し得る人工レセプタライブラリーの検証:夾雑系に含まれる標的分子群の網羅的・同時分析を達成するためには,これら標的種に対し交差応答性を示すレセプタが必要となる。本検討では,可逆的な分子間相互作用を駆動力とする競争的な分子自己組織化現象を活用することで,煩雑な合成を必要としない化学センサの構築を検討した。その結果,金属配位能を有するカテコール色素類と,当該色素と動的共有結合による複合化を達成するフェニルボロン酸をそれぞれビルディングブロックとすることで,金属イオン類に対し交差応答性を示す人工レセプタライブラリーを構築できることを光学滴定実験と多変量解析法によって実証した。本結果は,分子集合体の形成がinformation richな標的種応答パターンの形成に有用であることを示唆しており,今後センサアレイデバイスの構築においても当該知見を活用する。
2: おおむね順調に進展している
電解質溶液を構成要素とするデバイス構造を検討することで,OTFTの低電圧駆動を達成した。また,可逆的な閾値電圧制御法を見出したことで,アレイデバイスの構築において課題となる特性のバラツキを均一化することが可能となった。また,分子の自己組織化現象を活用することで,センサアレイに適用できる人工レセプタ材料を容易に調製可能であることを実証した。得られた知見は既に誌上・学会等において対外発表をしている。また,採録論文の一部が掲載誌表紙に選定され,研究特集記事が掲載された。更に,学会発表や研究業績に対して複数の賞を授与されている。当初の研究実施計画に沿った形で十分な成果が得られていることから,現在までにおおむね順調に研究が進行していると判断した。
EDLに基づく超強電界の発現は,積層型構造に限定されない自由なデバイス設計が可能であることから,OTFTの並列化や小型化に貢献し得る。今後確立したデバイス構造に基づき,OTFTの並列化・集積化を検討する。また,人工レセプタ材料群の検討にあたっては,有機合成化学的手法のみに依らないライブラリー創出法を検討することで,デバイスに導入可能な交差応答性分子認識場の構築に挑む。
受賞等:関東高分子若手研究会2017年度学生発表会・交流会優秀ポスター発表賞(2018年3月),電気化学会 進歩賞(佐野賞)(2018年3月),日本分析化学会奨励賞(2017年9月),安藤博記念学術奨励賞(2017年6月),第6回新化学技術研究奨励賞(2017年6月),化学とマイクロ・ナノシステム学会 若手優秀賞(2017年5月),第97春季年会 優秀講演賞 (学術)(2017年4月)
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 6件、 招待講演 16件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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