研究課題/領域番号 |
17H04884
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
冨田 峻介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (50726817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオメトリクス / 機械学習 / タンパク質 / 高分子 / セルベースアッセイ / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
培養細胞に刺激を与え、その応答を観察するというアプローチは、再生医療や医薬品開発を含む広範な分野で利活用されるようになってきた。本研究では、交差反応的な分子群によって得られる“応答パターン“を機械学習で解析する手法“交差反応型センシング”によって、外部刺激に対する細胞応答を、非破壊的かつマーカー分子に頼らずにモニタリングできる技術を確立することを目的とする。 初年度は、交差反応型センシングによる細胞応答モニタリングを実現するうえで基盤となる、高い感度と識別能を与えるTurn-ON型の交差反応性高分子の開発を推進した。具体的には、(i) 蛍光団を導入した一本鎖DNAと酸化グラフェンの複合体、および (ii) 環境応答性を示すダンシル基を導入したポリリジン誘導体を作製し、これらがタンパク質固有の応答パターンの取得に利用できることを示した。特に(ii)の高分子は、溶媒環境を変えるだけでタンパク質に対する交差反応性を変化させることができるという特性を有していることが判明した。そのため、異なるpHおよびイオン強度の水溶液中で高分子と分析物を作用させる方法により、1種類のポリマーだけで、例えば、タンパク質に生じた化学的変化(翻訳語修飾)の識別や定量を可能とする応答パターンを得ることができた。この優れた識別能に注目し、ダンシル基を導入したポリリジン誘導体を中心として様々な骨格・官能基を有する高分子群を合成し、細胞の非破壊的評価への応用を試みている。これまでに細胞の種類の識別や密度の定量などが可能なことを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な交差反応性材料を作製し、スクリーニングを進めた結果、初年度の目標とした、細胞応答モニタリングに適した材料の開発に関する重要な知見を得ることができた。なかでも新規に開発した環境応答性ポリリジン誘導体は、高精度かつ高感度なタンパク質の種類・翻訳語修飾の識別および定量などを可能とする優れた特性を示す。本材料は、これまでに報告されている交差反応型センシングで用いられている材料と比較すると、合成が簡単で、応答の多様化のために複合体化を必要としないうえに、Turn-ON特性に由来する高い感度を有している。したがって、本高分子は、難易度がより高いと想定される細胞の分泌成分の識別に挑戦するうえで、強力な基盤材料となると考えている。本材料を用いることで、細胞の培養に使用した培地成分の分析により、細胞種に固有の応答パターンが得られることを既に見出している。以上の成果から、当初の計画通りに研究が進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
[1] 細胞刺激応答モニタリングへの応用:開発した材料を用いた交差反応型センシングによって、細胞へ与えられた刺激に対する応答のモニタリングが可能かどうかを調べる。具体的には、例えば、分化誘導因子を様々な時間与えた幹細胞を、培地中で一定時間培養した後に培地を回収する。この分泌タンパク質含有培地サンプルを材料群と混合して、応答パターンを取得し、機械学習によって解析する。これによって細胞分化の進行度合いをモニタリングできるかを検討する。 [2] センシング系の改良:[1]の検討と平行に、刺激に対する僅かな細胞応答でも検出できる系を構築するために、初年度に開発した環境応答性分子を感度および識別能の面から更なる改良を行う。そのために、より高感度な蛍光団や、より多様な交差反応性を示す官能基の導入などを検討する。さらに、これらと合わせて、検出系の簡易化やデバイス化という面からも改良を進める。
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