研究課題
核酸医薬品の一つであるRNaseH依存型アンチセンス核酸の開発において、標的外のmRNAに作用するオフターゲット効果の問題は深刻である。近年の研究より、オフターゲット効果は、肝毒性をはじめとした核酸医薬品によく見られる毒性の主要な原因の一つであることが明らかにされてきている。そのため、安全性の高い核酸医薬品の開発には、標的外のmRNAに作用するオフターゲット効果の抑制が必要となる。そのような現状を踏まえ、本研究課題では、標的外mRNAへの作用を抑制する化学修飾の開発を目指している。この目的を達成するために、分子動力学計算による分子設計と化学修飾核酸を合成するとともに、対応する化学修飾が誘導するオフターゲット効果を評価したデータを用い合理的な最適化プロセスを経ることで化学修飾の開発を行う。本年度は分子動力学計算をもちいて歪み導入による複合体形成への影響を予測する手法の開発を行った。複合体形成への影響を予測するには、まず分子動力学計算に使用する条件の確定が必要となる。本研究目的に適した形の初期座標を構築し、計算を実施したところ、化学修飾により複合体形成の影響が再現されていると考えられる結果が得られた。この結果と実験値の比較により手法の有効性および改善を行っていく必要がある。また計算結果をもとに、実験値を得るために最初の候補分子の化学修飾核酸の合成も行った。適切に保護されたキシロースを出発原料とし、19工程の合成経路で合成している。この分子を用い、実験値の取得を行い、計算値との比較、フィードバックすることで、目的とする修飾核酸の開発を行っていく。
2: おおむね順調に進展している
RNaseH依存型アンチセンス核酸(DNA)、標的となるRNA、そしてエンドヌクレアーゼの一種であるRNaseHの三者が複合体を形成し、標的となるRNAの分解反応を誘導する。そのため、合理的な分子設計には、複合体形成に与える影響を予測する必要がある。複合体形成への影響を予測する手法の開発にむけ、AMBERを用いた分子動力学計算の条件の最適化を行った。RNaseH・DNA・RNA複合体のX線結晶構造のリン酸骨格の座標を用いて、塩基配列をポリデオキシチミジン・ポリアデノシンに変更することで、初期座標を作成した。またX線結晶構造を測定するために改変されたアミノ酸残基は、改変前の状態へ復元し、マグネシウムの座標はBacillus haloduransのRNaseHの構造を用いて初期座標を決定した。化学修飾が導入されたヌクレオシドのprepiファイルを、RESPチャージフィッティング法により電荷決定することで作成し、力場はOL15およびparmBSC1を用い、不足している場合はGAFF2.0力場を用いて追記した。水溶媒はexplicitな溶媒系であるTIP3Pを利用した。実施した計算結果のトラジェクトリーをもちいて核酸塩基部のゆらぎを変形能解析により評価したところ、活性部位のゆらぎは化学修飾によって影響を受けていることが明らかになった。また当初の計画通り歪みを導入した核酸の合成にも着手した。最初の候補分子の修飾核酸の合成を行った。計算結果をもとに、設計した化学修飾核酸の合成に向け、適切に保護されたキシロースを出発原料とし、19工程の合成経路で対応するホスホロアミダイトの合成を達成している。次年度においても当初の計画通り行う、この合成ユニットを用い実験値を取得していく予定である。
平成30年度においても当初の計画通り研究を進める。化学修飾を導入したオリゴヌクレオチドを合成し、再構成系でのRNaseHの活性に与える影響を評価する。予期している効果が見られた場合、細胞中での活性についても評価する。系としては、トランスクリプトーム解析と、そこから得られるオフターゲット効果対象遺伝子の配列解析から、予期しているメカニズムが達成できているかを精査する。また、オフターゲット効果により細胞毒性が誘導されていると考えられる核酸に導入することで、表現系に与える影響も評価する。上記の実験と同時に、分子動力学計算結果との関係について明らかにする。核酸とRNaseHの複合体のトラジェクトリーから実験結果を予測するのに適した指標の作成を試みる。現在のところ、活性部位近傍の構造ゆらぎが切断活性に影響している可能性を考えており、この部位の評価が指標になりうると考えている。変形能の評価を含め有効性を明らかにしていきたい。またこの指標が結果の予測の指標として不適格であった場合、アプローチとしては大きく二つ考えている。すなわち分子動力学計算での計算手法の精度を向上させることで予測精度の向上を目指す方法と、構造ゆらぎのみならず、他の要素を含め多変量解析を行うことで、予測に必要な指標を作成する方法である。現象の理解と再現の観点から前者に注力して検討するが、目的の達成の観点からは後者でも問題はないため、状況に応じて対応し、目的の達成に向け研究を推進していく。
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