最終年度は研究計画に基づき、合成した有機色素または鉄錯体触媒を用いた、光触媒活性評価を行った。有機色素はBODIPY色素を新規に合成し、可視光から近赤外領域を広範囲に吸収できる色素群を設計した。これはより効率的に光を吸収し光-水素変換効率を向上させることを目的とした。BODIPY色素は期待通り、400-720nmまで光を吸収可能であり、これは例えば酸化チタンに担持しても大きな吸収帯の変化はなかったことから、分解することなく担持できたことが分かる。次にこの色素を用いて光触媒活性を測定したところ、最大で249umolh-1g-1の効率であった。650nmにおいて0.6%程度の活性効率であり、今後さらなる分子設計による活性の向上が見込める。次に、配位子を種々変更した有機鉄錯体を合成した。光を可視光で吸収可能な配位子として、テトラセンユニットを用いた鉄錯体を合成したところ、光照射下で水素が発生しなかった。これは理論解析の結果、HOMO-LUMOともにテトラセン配位子に軌道が局在化し、水素反応サイトである鉄触媒部位に電荷が移動しないことが示唆された。電荷移動を促すためバルク電解による水素生産を行ったところ、66 TONの水素が生産でき、鉄配位子の準位をコントロールすれば光触媒で反応が行えることが分かった。これを受けて配位子のLOMO準位を上げた分子を設計し、有機色素としてルテニウム有機金属錯体、光触媒としてC3N4と組み合わせたところ、可視光の照射下で0.2 umol/hの水素生産が確認できた。また、開発した光触媒を共同研究によりヒドロゲナーゼに組み合わせても水素の生産が確認できており、本研究の目標である有機-無機-鉄触媒による水中での水素生産が可能であることを明らかにした。
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