研究課題/領域番号 |
17H04891
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中島 祐 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (80574350)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゲル / ダブルネットワークゲル / 高分子物理 / 単一高分子鎖 / 膨潤 / ゴム弾性 / 自己成長材料 / メカノケミストリー |
研究実績の概要 |
本年度は主に、ゲルの力学物性の精緻な解析による高分子鎖のForce curve抽出法が、前年度に報告したポリエチレングリコール(PEG)のみならず多様な高分子種に対して有効であることを示した。 DNゲルの差分解析法については、網目鎖の分子量が異なるPEGゲル、ランダム共重合により得られたアクリルアミド系ポリマーのPAMPSゲル、多糖であるプルランゲルを第1網目としたDNゲルを合成し、これらDNゲルの応力-歪曲線の差分解析により、多様な化学種の高分子鎖のForce curveを算出した。またゲル膨潤法については、分子量が異なるPEGゲルおよびPAMPSゲルの膨潤度を収縮状態から伸び切り状態まで制御し、その膨潤度と弾性率との関係性から高分子鎖の伸長度と弾性エネルギーとの相関を検討した。いずれの高分子種・解析法においても、得られた高分子鎖の力学特性はAFMによるForce curve測定から得られたものとほぼ一致していた。特にプルランの場合は、そのForce curve中に延伸に伴う環の配座変化に対応する特徴的な挙動が確認された。これらのことから、DNゲルの解析から多様な高分子鎖のForce curveが抽出できることが現象論的に明らかとなった。さらにPEGゲルについて、ゲル膨潤法(三軸延伸)で得られた弾性エネルギーを基に、PEGゲルの一軸延伸に伴う応力-歪曲線の計算を試みたところ、極めて高い精度で実験値と予測値の一致が見られた。ここから、本研究で得られた成果は、多様な高分子ゴム様材料の物性予測にも有用であることが示唆された。 加えて本年度は、DNゲルの差分解析法に関連して、DNゲル延伸時に内部で高分子鎖が極度に伸長されて切断すること、また高分子の切断は化学反応を誘起し得ることに着目し、力学負荷に伴って強度やサイズ、機能が向上する自己成長DNゲルを創製することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画であった、ゲルを用いた高分子鎖のForce curve抽出法が多様な高分子種に対して適用可能であることの証明はほぼ達成された。加えて、追加目標であったForce curveからネットワークの弾性を再現することにも、限られた条件下において成功した。さらに、本測定法の思想を応用し、DNゲルにおける高分子鎖の内部破壊を利用した材料創製まで行うことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、ゲルの力学物性の精緻な解析から高分子鎖のForce curveが取り出せることは現象論的に明らかとなった。しかし、特にDNゲルの差分解析法において、なぜ本方法でForce curveが取り出せるのかは理論面で必ずしも明らかではなく、今後、本法の妥当性に関する理論の構築が必要である。次年度以降、実験を進めるほか、高分子物理科学者とも連携して理論の構築に挑む。
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