本研究では、高分子1本鎖の極限伸長にまで至る力学物性を、ゲルの力学物性から抽出することを目標としている。 項目1:ダブルネットワークの力学測定による1本鎖力学特性の抽出、について、昨年度までに本方法がある程度の精度で実験的に可能であることを確認し、さらに測定理論の構築を行った。本年度は本測定理論の理論的検証と深化を行った。具体的には、まず力-伸び関係が既知の高分子によるゲルの構築と力学測定を仮想的に行った。次いで、得られた仮想的測定結果から、本理論を用いて1本鎖の力学特性を抽出し、元の高分子の力-伸び関係と比較した。昨年度までの理論では両者に10%程度の誤差が見られたが、理論を深化させることにより、誤差を1%程度にまで小さくすることに成功した。さらに修正した理論をこれまでの実験結果に適用することにより、従来よりも高い精度で1本鎖の力学特性を抽出できるようになった。現在、論文投稿に向けて理論科学者と頻繁にディスカッションを行っており、近日中に論文を投稿できる見込みである。 項目2:膨潤試験による1本鎖力学特性の抽出、については、ゲルに高浸透圧成分(分子ステント)を導入することで膨潤させ、膨潤度と弾性率との関係性から1本鎖の力学特性の抽出を行っている。従来は導入できる分子ステントの量に限度があったため、ゲルを極限まで膨潤させることが出来なかった。本年度、分子ステントの導入法を工夫することにより、その導入量をはるかに増加させることに成功し、従来よりも大きな膨潤度までゲルを膨潤させることに成功した。導入量を極端に増大させた場合はゲルが膨潤圧で分解したことから、本手法によりゲルをその幾何学的限界まで膨潤させることが可能になったと言える。得られた膨潤度と弾性率のデータの解析から、極限伸長時の1本鎖の力学特性が抽出されたと考えており、現在解析を進めている。
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