研究課題/領域番号 |
17H04896
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内田 幸明 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60559558)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 液晶 / 非相反性 / 有機ラジカル / レーザー発振 / エマルション |
研究実績の概要 |
通常、光が媒質を伝播するとき、前向きと後向きの光の透過率や旋光度、二色性などは全く同じになる (相反性)。光導波路内で逆行する戻り光が光源を不安定化することを抑えるために、戻り光を抑制する非相反性素子、「光アイソレータ」が用いられる。最近では、デバイスの軽量化・省スペース化のために、光導波路内でレーザーと光アイソレータの一体化が試みられている。 一方、量子情報技術で必須となる単一光子で動作する光スイッチやレーザー光源などの極限デバイスには微小球共振器が重要な役割を果たすと考えられている。三次元全方位レーザー素子である微小球を光アイソレータで包めば三次元光導波路のレーザー光源となるはずである。 本研究では、コレステリック液晶 (N*) シェルの全方位円偏光レーザー発振を初めて報告し、その微小球共振器としての機能について研究してきた。本研究では、磁気円二色性 (MCD) を示す材料を用いて三次元非相反レーザー光源として機能するN*シェルを創出する。(i) ニトロキシドラジカル (NR) 化合物のMCD の測定とそのメカニズムの解明、(ii) NRN*液晶を用いたレーザー発振、(iii) NRN*液晶のMCD の検出、(iv) NRN*液晶の非相反レーザー発振、(v) NRN*シェルの非相反レーザー発振の五段階で研究を進めていく予定である。 本年度は、NR化合物のMCD スペクトルの温度依存性を測定して、そのメカニズムを解明することに成功した。また、NRN*液晶中で色素が発光する分布帰還型 (DFB) レーザーが可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NRN*液晶のMCD スペクトルを測定する前段階として、すでに室温域におけるNR 液体のMCD スペクトルの測定に成功している。しかし、ベンゼン環由来のMCD とNR 部位由来のMCD が重なるため、正確なメカニズムの議論が難しい。そこで、本研究では、NR 部位のみでMCD を示す化合物の MCD スペクトルを測定する。具体的には、ポリマーに分散させたこの化合物のMCD スペクトルの温度依存性を測定し、スピンハミルトニアンを用いて計算したMCDスペクトルと比較し、遷移の帰属を行った。現在、投稿論文を準備中である。 これと並行して、NR 部位のMCD ピーク波長に発光ピークを持つ色素をNRN*液晶に添加しDFB レーザーの共振器として機能するか確かめた。現在、投稿論文を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
NRN*液晶のMCD スペクトルを測定するには、液晶の直線二色性と複屈折を除く必要がある。予備実験として、市販のネマチック (N) 液晶とN*液晶を用いて測定に適した配向状態の検討を行った。その結果、垂直配向N 液晶と水平配向N*液晶が誤差を抑える配置であることを見出した。 本研究では、水平配向NRN*液晶セルを作製し、異方性を打ち消すために回転する半波長板を光路に置くことで、液晶相における正確なMCD スペクトルを測定する。MCD によって、円偏光の吸収スペクトルのピークの強度と波長は、ともに変化し、それぞれがレーザー発振の強度と波長の非相反性として現れると考えられる。次項以降の戦略は、どちらの非相反性が現れるかに依存する。そこで、連続体理論を用いて磁場中の配向場解析を行い、NRN*シェル全体の誘電率と吸光度の空間分布を再現し、そのデータにNR 化合物の吸光度の磁場依存性の形でMCD を組み込んでFDTD 解析を行うことで、NRN*液晶の非相反レーザー発振を予測する。 また、磁場中でのレーザー発振強度の方向依存性を測定する。レーザー光の波長と、MCD が最大となる波長が異なるために、磁場中でのレーザー発振の非相反性が小さい場合、ラセミ体との混合や市販のキラル剤を添加により、らせん周期を調整する。
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