研究課題/領域番号 |
17H04897
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
坂井 建宣 埼玉大学, 研究機構, 准教授 (10516222)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / 応力緩和挙動 / 粘弾性特性 |
研究実績の概要 |
本年度は、はじめに高分子材料のMD解析モデル作成法について検討を行い、RIS+MM法(ランダムに光学異性体を作成し、その後周辺の力場を考慮したモンテカルロ法によるランダム配置する方法)と、MM法のみ(初期配置の分子鎖において周辺の力場を考慮したモンテカルロ法によってランダムに配置する方法)を比較検討した。様々な実験およびMD解析に関する文献において特性比の値は様々な値を示していたが、本研究による結果ではRIS+MM法においておおよそこれらの文献の平均値に位置する結果が得られた。 これらのモデルに対して応力緩和解析を行った。その詳細について、運動エネルギ、結合エネルギ、結合角エネルギ、結合二面角エネルギ、非結合エネルギに関する調査を行った。その結果、応力緩和中のシステムは運動エネルギが変化せず、結合二面角エネルギのみが増加、他のエネルギは減少すること、また分子鎖の初期構造生成法の違いによりポテンシャルエネルギに差が生じており、MM法ではなだらかに変化しているのに対し、RIS+MM法では初期に大きく変化し、その後MMと同様になだらかに変化することが明らかとなった。一方で、引張時の応力ひずみ線図、応力緩和時の応力―時間曲線はどちらの初期構造生成法においてもほぼ同じ形となっている。このことから、分子鎖の初期構造の違いはシステムの内部エネルギなどに影響を及ぼすが、応力ひずみや応力緩和などのシステムの巨視的な応答への影響は少ないことが示唆された。 高分子材料の粘弾性特性を考える上で、ベータ緩和のみを考慮した場合、分子鎖のねじれ(=結合二面角エネルギ)がダッシュポットの動きに対応し、結合エネルギ、結合角エネルギ、非結合エネルギがバネに対応することが示唆された。分子鎖がねじれることで粘性が発生し、原子間の結合などの弾性が緩和されることでシステム全体の応力緩和が発生していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにMD解析専用のワークステーションを用いて応力緩和解析を5種類の高分子材料に対して行っている。その結果から、モデルの正確な作成法の提案および、高分子材料の応力緩和挙動中のベータ緩和挙動を明らかにすることができている。また、結合エネルギ・結合角エネルギ・結合二面角エネルギ・非結合エネルギなど、分子間に働くエネルギを考慮した結果、粘弾性システムの粘性項および弾性項に働くエネルギを分類することができた。 次に5種類の材料の熱的特性の把握については示差走査熱量測定(DSC解析)を行うことにより、ガラス転移温度・結晶化温度・融点の計測を行った。その結果を踏まえて、次に示す動的粘弾性試験を行った。 動的粘弾性特性の把握を行っている。動的粘弾性試験においては0.1 Hz~30 Hz程度の低周波数領域での実験しか行えず、MD解析で行うような極短時間の粘弾性挙動に対応する高周波数領域での実験が望まれていた。そこで、超音波の縦波音速および減衰率を用いた粘弾性評価法を考案し、動的粘弾性試験結果および誘電を用いた高周波数領域の誘電粘弾性特性の結果と比較を行った。本年度においては高周波数領域における粘弾性特性の取得が正確なものかどうかを検討する段階であり、まだMD解析結果との比較は行えていない。 これらの実験的な粘弾性特性の把握を行うために、非線形・線形粘弾性の境界を模索したが、極めて低い応力レベルで非線形・線形が分かれている結果および、実験が困難なほど大きい応力レベル以上で非線形性を示す場合があり、系統的なまとめができていない状況である。しかし通常の実験の範囲ではすべて線形粘弾性特性を示すことが明らかとなっている。 MD解析結果と実験結果の比較がまだ行えていない部分もあるが、進行度合いとしては概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、粘弾性特性の一つであり、より大きな緩和挙動であるアルファ緩和挙動を対象とし、クリープ解析を行うこととする。特にこのクリープ解析を行う場合、どのような評価方法によってアルファ緩和挙動に及ぼすポテンシャルエネルギを明らかにすることができるかを検討する必要がある。そこで、最初にポリプロピレン材のみを用いた解析を行うことを計画している。これらに対応する実験も行い、時間-温度換算則を適用することで極短時間領域のクリープ挙動を算出し、その結果と比較を行う。また、MD解析においても異なる温度条件における解析結果を用いて時間-温度換算則を適用し、実時間に近いレベルでの解析を試みる。 また、粘弾性特性は粘弾性挙動のみならず、破壊挙動にも影響を及ぼすことが考えられる。そこで様々な温度・ひずみ速度における単純引張解析を行い、その破断面におけるアルファ緩和挙動を観察し、実際の実験結果との比較を行うことで、MD解析の妥当性の検討および粘弾性特性が破壊過程に影響を及ぼす原因を明らかにする。そのために、静的試験を様々な温度・ひずみ速度で行うことで破断試験を行い、得られた破断面をレーザー共焦点型顕微鏡および原子間力顕微鏡によって観察することで、破断面の3次元マッピングを行う。その結果とMD解析の結果における類似点を見つけ出し、MD解析の妥当性の検討を行う。 以上の結果が得られたら、3年目においてどのような分子構造が粘弾性特性に影響を与えるのかを定量的に評価を行い、マテリアルデザインの指標を作る。その際に、これまで実験していない材料について評価を行い、これまでに明らかにした分子構造依存性の確認を行い、寿命評価を行う。
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