研究課題/領域番号 |
17H04899
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
藤井 朋之 静岡大学, 工学部, 准教授 (30377840)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 環境強度 / 応力腐食割れ / き裂発生 |
研究実績の概要 |
昨年度は,応力腐食割れ(SCC)に関して,以下の二点に注目して研究を推進した. 1)応力腐食き裂発生挙動のX線的評価: 腐食環境に浸漬した状態で定荷重を受ける試験片について二次元検出器を有するX線回折装置を用い,単一粒界の逐次観察を行った.SCCき裂の発生前後におけるデバイ環に基づき転位密度等の変化を評価する予定であったが,腐食環境,pH, 負荷荷重を変化させてもSCCき裂発生が十分に生じず,回折プロファイルの変化とき裂発生挙動の関係を見出すことができなかった.単一粒界だけを腐食液に暴露するように,単一粒界の周辺をプラスチックでコーティングしたが腐食に影響を及ぼした可能性がある.そこで暴露領域を増加させて実験を行うように現在検討中である. 2)応力腐食割れ評価のための粒界腐食感受性の評価:1)を実施するにあたり,応力腐食割れが発生する粒界を予め特定しておく必要があった.そこで,粒界腐食感受性と粒界特性(ミスオリエンテーションや対応粒界)の関係を評価した.その結果,小傾角粒界についてはミスオリエンテーション,大傾角粒界の対応粒界については幾何学的特性を用いて粒界腐食感受性が評価できることが分かった. これまでに実施してきたSCCき裂発生挙動に及ぼす局所応力や粒界の長さ,粒界特性の影響に関する研究およびき裂進展速度に及ぼす等価応力拡大係数変化率の影響に関する研究をまとめ国際誌に投稿し,また,SCCき裂発生及ぼす局所ひずみの影響については国際会議で発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前述のように,単一き裂に着目したき裂発生挙動については,SCCき裂の発生前後におけるデバイ環に基づき転位密度等の変化を評価する予定であったが,腐食環境や力学条件を変更してみたがSCCき裂が十分に発生せず,回折プロファイルとき裂発生挙動の関係を見出すことができなかった.単一粒界だけを腐食液に暴露するように単一粒界の周辺をプラスチックでコーティングしたことが原因と考えられた.今後は,以下のようにプラスチックコーティングをなくすることによりSCCき裂発生を促進させ,同様の実験を継続する予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,以下の二点について研究を推進する. 1)実験装置の改良によるSCCき裂発生挙動のX線的研究:腐食環境中で引張治具による定荷重試験が可能とする持ち運び可能な小型冶具を作製し,試験中にビデオマイクロスコープを組み合わせることのよりその場観察システムを構築する.試験片に定荷重を負荷したまま腐食液に浸漬し,き裂挙動をビデオマイクロスコープを用いて表面の変化やき裂の発生の有無を観察する.定期的に腐食液から取り出し,X線回折装置を用いてX線回折パターンの測定を行い,き裂発生前後のデバイ環に基づき転位密度等の変化の観点から,き裂発生挙動の検討を行うことを計画している.さらに,き裂発生後についても逐次X線回折パターンを取得して,微視き裂の進展に関しても同様に評価を行う. 2)SCCき裂進展挙動の評価: き裂進展挙動のその場観察を行う.本試験では,破壊力学試験片を用いて疲労き裂(もしくは腐食疲労予き裂)を予め導入し,さらに予き裂先端の微視組織を走査型電子顕微鏡(SEM)に取り付けられた電子線後方散乱回折(EBSD)装置により測定を行っておく.次いで,予き裂材の腐食環境中での定荷重試験を行い,き裂進展挙動のその場観察を行い,き裂進展挙動の結晶学的評価を行う.さらに,デジタル画像相関法によるひずみ分布測定を組み合わせることから,き裂進展方向の力学的評価を合わせて行う.そのことから,き裂進展挙動に及ぼす結晶学的・力学的因子の解明を目指す.
|