研究課題/領域番号 |
17H04904
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
名村 今日子 京都大学, 工学研究科, 助教 (20756803)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マランゴニ対流 / マイクロバブル / 金ナノ粒子薄膜 / 沸騰 / 水冷 |
研究実績の概要 |
現代の産業全般において,水冷技術は非常に重要な役割を担っている.特に,宇宙空間に漂う機器類や高集積化する電子デバイス内での熱のマネジメントは急務となっている.水冷技術において鍵となるのは加熱壁面から流体への熱伝達率と流体中の熱伝導・熱輸送である.加熱壁面上に生成するバブルとその周辺に発生する対流は,これらの熱の移動に対して大きな影響を与えることが知られている.しかし,加熱壁面上のランダムな位置に発生する小さなバブルを観察することは容易ではなかった.また,沸騰に伴って生じるバブルは非常に複雑な温度勾配下に置かれており,その挙動を理解するのは困難であった.これに対して,本研究は金ナノ粒子薄膜の局所的な光熱変換特性を導入することで,バブルの生成やその周辺の温度勾配の積極的な制御を目指している.本年度はこのようなバブルと流れの発生の制御を行うための観察系のプロトタイプをいくつか作製した.また,これらの観察系を用いて,室温の脱気水および水―アルコール混合液中で局所加熱を行なった場合に発生するバブルと流れについて調べた.その結果,非常に強い流れを伴う蒸気バブルが発生する水中溶存気体量の範囲を明らかにすることに成功した.また,アルコールの添加によって生じる濃度勾配マランゴニ対流を熱的にコントロールする方法を確立した.この成果はすでに論文として報告している.本年度の成果は加熱壁面近傍に発生するバブルと流れを理解する上で重要な知見を与える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の研究計画に基づいて,流体沸騰観察系の構築と室温の脱気水および水-アルコール混合液を局所加熱した場合に発生するマイクロバブルと流れに関する研究を行った. 流体沸騰観察系を構築するために,いくつかの流体観察用セルの試作を行った.本実験においては,水中の溶存気体量を調節し,さらにそれを一定に保つことが非常に重要である.これまでに作製した流体観察用のセルは密閉型ではなかったため,水中溶存気体量を一定に保つ上で問題があった.さらに,水中溶存気体量を調整した水を観察用のセルに移す際に,水に気体が再溶解することも問題であった.そこで,溶存気体量を調整した水を真空中で密閉型観察用セルに移送できる系を作製した.そして作製したセル中の水の溶存気体量を,ガスクロマトグラフィーを用いて調べた.また,溶存気体量の制御とは別に,加熱流体中でのマイクロバブル及び対流の挙動を明らかにするために,温度調節機能つきの流体セルを作製した. 作製した観察系を用い,セル内の溶存気体量をガスクロマトグラフィーで定量的に測定することで,水中溶存気体量とバブル生成との関係を明らかにした.さらに,水―アルコール混合液中で発生する対流に関する研究では,興味深い結果が得られた.温度勾配下にあるマイクロバブルでは,表面張力に勾配ができ,通常高温部から低温部に向かって力が働く.しかし,水-アルコール混合液中ではバブル表面にアルコールの濃度勾配ができ,低温部から高温部に向かって力が働くと考えられていた.本研究では,これらの力が釣り合うアルコール濃度を実験的に明らかにすることに成功した.水-アルコール混合液中での沸騰を考える上で重要な知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
29年度は流体沸騰観察系を構築するために,いくつかの流体観察用セルの試作を行った.その過程で明らかになった問題点を踏まえて,30年度は新たに流体沸騰観察系を作製し,加熱壁面から流体への熱流束の測定とバブルの性質が熱流束に与える影響の調査を行う予定である. まず29年度の研究から,真空容器内での水の移送によっても水中にたくさんの空気分子がとけ戻ってしまうことがわかった.そこで30年度は,流体の脱気及び観察が同じセル内で行うことができる観察系を構築する.さらに,温度・熱流束センサなどをセルに取り付けることで,バブルと流れの発生が沸騰時の熱伝達に与える影響を定量的に調べることができるようにする.作製した流体沸騰観察用セルを用いて,沸騰直前まで加熱した流体をさらに局所加熱する.局所加熱には,金ナノ粒子薄膜の光熱変換特性を用いる.この時に局所加熱点で発生するバブルと流れの様子を観察する.また,同時に加熱壁面から流体への熱流束を測定する.特に,流体中で空気のバブルが生成する場合と蒸気のバブルが生成する場合,さらにバブル表面に水-アルコール濃度勾配が発生する場合の熱流束の差を明らかにする.
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