研究課題/領域番号 |
17H04911
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉藤 一哉 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 特任講師 (40628723)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生物模倣工学 / 展開構造 / コンプライアントメカニズム / スマート |
研究実績の概要 |
本研究は昆虫後翅の収納・展開機構の研究を軸に,外骨格生物特有の骨格の弾性を利用した高速変形メカニズムを解明することで,巨大な宇宙構造から微小な医療デバイスまで様々な用途・スケールで応用可能な新しい形状可変機構の設計手法を構築することを目的とするものである.これは【①三次元計測・運動解析技術による形と動きのデータ化】,【②モデル化とシミュレーション・実験による検証】,【③人工物による動きと機能の模倣】の3つの要素技術の開発で実現される. 平成29年度はテントウムシ,カブトムシ,ハサミムシを主なターゲットとして,主に【①三次元計測・運動解析技術による形と動きのデータ化】に関して研究を行った.テントウムシにおいては,UV硬化樹脂とシリコン印象材で透明な人工鞘翅を作って移植する独創的な手法に加え,マイクロCTスキャナで得られた3次元形状データを利用した有限要素解析による機械的特性の解析など新しい研究手法を多数提案した.ハサミムシの研究においては,昆虫のマイクロCT撮影技術に関する調査を行い,固定やヨウ素染色によってこれまで難しかった小型昆虫の微小な翅脈の構造を撮影する方法を構築した.カブトムシに関しては,上記②,③に関しても研究を行った.後翅の折り畳みに見られる特徴的な3角形のパターンに着目し,折紙の幾何学を用いて可展性,剛体折り可能性の検討を行い,人工の展開構造に応用するための設計法を開発した.また実際に小型ドローン用の展開翼を作成し,市販の羽ばたきドローンへの実装を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は観察・モデル化・模倣の3つのフェーズで進行し,【①三次元計測技術と動作解析技術による「形」と「動き」のデータ化】,【②動作原理のモデル化とシミュレーション・実験による検証】,【③人工物による動きと機能の模倣】の3つの目標の達成を目指す.平成29年度はこれまで申請者が取り組んできた昆虫の翅の収納・展開機構の研究を中心に,①~③の基本的なアプローチの確立を目指して取り組んだ.①に関しては,ハイスピードカメラにより様々な昆虫の高速動作を撮影し,基礎技術の構築が完成した.また,マイクロCTによる小型甲虫の撮影に関しても,この分野の第一人者である北海道大学青沼仁志教授との協力体制を構築し,固定,ヨウ素染色等の手法を取り入れることができた.②,③のフェーズに関しても,カブトムシ型展開翼の開発を基に基礎的なアプローチを確立することができた. テントウムシの論文に関してはNature,Scienceに次ぐトップジャーナルある米国科学アカデミー紀要(PNAS)の表紙にも採用され,読売新聞,NHKなどの国内メディアの他,The New York Timesやル・モンドを初め海外の主要メディアでも取り上げられるなど大きな反響があった.①~③の基礎的アプローチを確立した上で,このように初年度から注目される成果を出すことができたため,当初の計画以上に進展していると自己評価している.
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今後の研究の推進方策 |
申請時の計画通り,平成29年度に確立した手法にベースに他の昆虫類に研究対象を拡大する.本年度は特に半翅目の胸部に見られる高速変形メカニズムに着目し,研究を進める予定である.筋肉で跳躍するバッタ等と異なりヨコバイやカメムシなどの半翅目は脚部の外骨格の弾性を跳躍に利用している.昆虫学者とのネットワークを活かし情報収集を行い,工学的に興味深い昆虫の動きを寄り広範囲に調査士,【①三次元計測技術と動作解析技術による「形」と「動き」のデータ化】を勧める.また,【②動作原理のモデル化とシミュレーション・実験による検証】,【③人工物による動きと機能の模倣】においては,3Dプリンタや折紙構造による実装を目指して跳躍機構や羽ばたき機構の設計を行い,形状記憶合金ワイヤなどの軽量アクチュエータと組み合わせて機能実証モデルの開発を目指す.
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