研究課題/領域番号 |
17H04920
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
大河内 拓雄 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (00435596)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロ波共鳴 / 強磁性共鳴 / 光電子顕微鏡 / 時間分解測定 / イメージング / 磁気ダイナミクス |
研究実績の概要 |
平成29年度は学術的な実験の実施に先立って、SPring-8 の軟X 線ビームラインに設置の光電子顕微鏡(PEEM)装置において、X-FMR イメージング機構を整備することを目標とし、GHz級のマイクロ波の導入が可能な専用試料ホルダの改良版を製作した。この改良版では、PEEM対物レンズに高電圧を印加した際の放電が問題となっていたため、接着材料の検討や、配線露出を避けるためのキャップも追加製作した。ここでは、キャップ付加によるマイクロ波の漏洩や反射の効果も計算し、協力メーカーと協議の上、最適なデザインを決定して製作を行った。テストパターンにおいて5 GHz以上の導入を確認し、脱ガスも大幅に抑えることができた。また、周波数外部同期が可能な電源も入手し、当該予算により試料とホルダの間を微細配線するボンディング装置、高周波電源用アンプとソースメーターも購入し、時間分解測定を行うための機材が整った。 この進捗を受け、平成30年度はポンプ-プローブ法を組み合わせた実験により、軟磁性体をベースとした多層膜試料のFMRを初めて観測することを目標として実験を進めた。テスト試料として、Si基板上に加工した様々な形状のNiFeマイクロパターン試料において、共鳴周波数と考えられる3GHz程度の高周波を導入した。マイクロ波導入に伴う電場変動による画像振動が確認でき、実試料においてのPEEMオプティクス上の高周波導入に初めて成功したが、共鳴条件で期待される磁化の歳差運動の促進の観測にはまだ至っていない。観測に適した磁化方向の制御など、試料や観測ジオメトリーなどの工夫を重ねて試行錯誤を進めて行く。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」にも示した通り、平成29年度の目標である、「時間分解X-FMRイメージング測定環境の整備」は予定通りに進行した。特に、PEEM用マイクロ波導入専用ホルダの改良版製作では綿密な設計によってこれまで問題となっていた放電問題が解決したことが目標達成に寄与した要因である。平成30年度は、実試料による高周波導入まで進捗した。実際のXMCD-PEEM観測による微小磁化振動の検出にはまだ至っていないが、より基本的な磁区構造を有した試料や画像積算法の改良など、マイナーかつ地道な改良により成功するものと見込んでいる。 また、本テーマの派生的なテーマとして、垂直磁化マイクロ細線における磁壁のパルス電流制御に関する成果も得られ論文発表に至っており(T.Ohkochi et al., JJAP, 58, 023001 (2019))、その他、レーザーパルス励起による瞬間熱消磁後の磁気渦構造の初期生成過程観測などの実験にも着手しており、興味深い結果が得られはじめている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進捗はいくつかの課題に直面しているものの順調で、本格的な実験がスタートしているため、平成31年度は「交換結合型多層膜のACスピン流伝搬制御」の実験の成功をターゲットとして研究を進めて行く。この実験では、ナノスケールで積層した「磁性体(NiFe)/非磁性体(Cu)/磁性体(Co)」三層膜の磁化歳差運動を元素別に実時間で解析する。このような多層膜では、相対磁化配列の条件によってDC 電流下では巨大磁気抵抗(GMR)効果を発現するが、AC スピン流に対して類似の制御性を持つかどうかを検証し、高速領域のスピンの能動的制御を目指す。 具体的には、軟磁性NiFe層の強磁性共鳴(FMR)条件である数GHzのマイクロ波を導入した条件下で、NiFe層、ならびに積層されたCo層の磁化歳差運動を観測し、多層膜における歳差運動の伝搬や、その空間的不均一を観測する。これがNiFe層とCo層の静的な磁化配列を変化させた場合にどのような挙動となるのかも議論する。発展的なテーマとして、非磁性Cu層のFMRの検出も試みる。FMRによる歳差運動は微小であるため、十分なマシンタイムを確保して統計精度を得る。 現在は、基礎段階としてNiFe単相膜のマイクロパターンのテスト試料で磁化歳差運動の検出を試みている段階であるが、これが成功し突破口を得られれば上記の実験は順調に進んでいくものと見込んでいる。 加えて、派生テーマであるパルスレーザー励起の磁化生成ダイナミクスについても、磁気物理の根源に根差した大変重要なテーマであるため、並行して実験を進めて行く。まとめ期の仕事として、得られた成果は国内外の学会や原著論文にて積極的に成果報告を行う。
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