研究課題/領域番号 |
17H04922
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
Le DucAnh 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (50783594)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 室温強磁性半導体 / 低温分子線エピタキシー / 強磁性共鳴 / 磁気トランジスタ / 磁気異方性 |
研究実績の概要 |
①分子線エピタキシー法(MBE)を用いて高品質のFeドープGaSb/InAs構造の結晶成長技術を確立した。これにより、p型強磁性半導体(Ga,Fe)Sb(Fe濃度が20%)の試料でもキュリー温度が350K で室温を大きく上回った(先行研究では230K だった)。また室温強磁性(Ga,Fe)Sbの成長は様々なバッファーの上で実現でき、本材料を利用するデバイス設計の自由度を大きく高めた。 ②様々なバッファの上に成長した(Ga0.8,Fe0.2)Sb薄膜を室温で強磁性共鳴現象の観測に成功した。共鳴磁場の磁場角度依存性の解析によって(Ga,Fe)Sbの形状磁気異方性エネルギーと結晶磁気異方性エネルギーを分離して磁気異方性を評価できた。 (Ga,Fe)Sbの結晶磁気異方性エネルギーは結晶の歪みに比例し、外圧による制御可能性を示唆した。しかし、膜の強い磁化による形状磁気異方性が支配的に大きい。デバイス応用に向けて(Ga,Fe)Sbの磁化制御には形状磁気異方性の活用が非常に大事である。 ③(Ga0.8,Fe0.2)Sb /InAsヘテロ構造の成長とその横方向の磁気伝導特性を調べ、(Ga,Fe)Sbの磁化により非磁性膜であるInAsでも数%の磁気抵抗を初めて観測した。このInAsの磁気抵抗は(Ga,Fe)Sbの磁化Mの方向に対して強い異方性を示し、Mが膜面の垂直方向に向ける時に最小値、面内に向ける時に最大値を取り、数%も変化する。この磁気抵抗の対称性は強磁性体/非磁性体界面で観測された磁気抵抗現象の対称性から大きく違って、まったく新しい起源をもつ磁気抵抗効果を見ていることが分かった。また(Ga,Fe)Sb /InAsの表面に電界効果トランジスタ構造を作製し、ゲート電圧と(Ga,Fe)Sbの磁化方向によってInAsの抵抗を大きく変調でき、磁気トランジスタの実現にもつながると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の当初の計画として:①高品質FeドープInAs/GaSb構造の成長技術を確立、②強磁性半導体(Ga,Fe)Sb薄膜の強磁性共鳴測定(FMR)とそれによるスピンポンピング効果を調べる、③(Ga,Fe)Sb/InAsヘテロ構造において電気的な手法でスピン注入・検出を行う、を予定していた。 ①の目的について予定通りに完了し、安定かつ良質なFeドープInAs/GaSb構造の成長過程が確立できた。新しく導入されたSbバルブドクラッキングによるSbフラックスの精密な制御と細かい成長条件だしの結果だと考えられる。これによって予想もしなかった(Ga,Fe)Sbのキュリー温度の強い増大効果が得られて、室温強磁性半導体(Ga,Fe)Sb薄膜とそのヘテロ構造を再現性良く作製できるようになった。 ②の目的について(Ga,Fe)Sbの室温におけるFMRの観測と解析まで実現できたが、スピンポンピング手法によって(Ga,Fe)Sbの磁化からInAsへの角運動量の伝送及びそのスピン流の検出はまだ実現できていない。現在のFMRとスピンポンピング実験はすべて室温で行っているが、キュリー温度に近いため(Ga,Fe)Sbの磁化がかなり弱まっていることが原因だと考えている。成長条件の最適化で(Ga,Fe)Sbの磁化を強める、かつFMRとスピンポンピング実験を低温で行えるように装置を改造する方向に進めている。③の実験まではまだ進んでいない。 一方、本年度で (Ga,Fe)Sb/InAsヘテロ構造において、(Ga,Fe)Sbの磁化によって非磁性InAsチャネルに大きな磁気抵抗(~8%)を誘起する現象を観測できた。また電界効果トランジスタ構造を作製して、電気的なゲート電極と(Ga,Fe)Sbの磁性的なゲートで出力を制御可能な磁気トランジスタの実現までできた。この内容は30年度に計画していたが、予定より早く進行できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策について、まず(Ga,Fe)Sb/InAsヘテロ構造におけるスピンポンピング実験を実現してスピン伝送、伝導現象を調べる。現在室温において(Ga,Fe)Sbの磁化が弱い問題に対して、成長条件の最適化で(Ga,Fe)Sbの磁化を強める、かつFMRとスピンポンピング実験を低温で行えるように電子スピン共鳴装置を改造する方向に進めている。 次に同じ(Ga,Fe)Sb/InAsヘテロ構造で電気的な手法によってスピン注入・伝導・検出を行い、スピンバルブ効果を実現する。 また30年度の予定していた(Ga,Fe)Sbの磁化によって非磁性InAsチャネルの伝導の制御の実験を、InAsの膜厚依存性、(Ga,Fe)Sbの磁化依存性など、さらに詳しく調べ、観測した新規の磁気抵抗現象の起源の解明と制御をし、磁気抵抗効果の増大できる方法を検討すべきである。
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