本年度は、主な研究対象である分布型光ファイバセンシングシステム「ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)」の性能向上を中心に、次の各方面から研究を推進した。すなわち、(1) 導波音響波型ブリルアン散乱(GAWBS)に基づく温度分布計測の実証、(2) 光周波数のチャープ変調に基づくBOCDRの測定レンジの延伸、(3) 偏波ビート長の高速分布測定の実証、(4) プラスチック光ファイバ(POF)を用いた高感度磁界計測の実証、などである。以下、それぞれについて詳述する。 (1) 従来の光ファイバ型分布計測では、専ら後方ブリルアン散乱が用いられていた。今回、前方ブリルアン散乱とも呼ばれるGAWBSに基づく相関領域での温度分布計測に初成功した。今後、従来法では実現困難な音響インピーダンスの高速測定の実現につながると期待される。(2) 従来のBOCDRでは、光周波数に正弦波変調を印加することで位置分解を実現していた。今回、正弦波変調に替わり、チャープ変調を導入することで、測定レンジが延伸されることを実験的に示した。変調波形の最適化によりBOCDRの性能が改善し得ることを示した成果であり、今後、さらに複雑な波形での変調による性能改善の可能性を示唆している。(3) BOCDRにおける測定スペクトルの裾野のパワー変化を用いることで、光ファイバの性能評価指標でもある偏波ビート長の分布を高速に計測できることを実証した。今後、さらに詳細なストークスパラメータの分布測定を実現したいと考えている。(4) 一般に、光ファイバは電磁界の影響を受けないことがメリットとされている。しかし同時に、光ファイバを用いて電磁界を計測することは困難であった。今回、「ヒューズ現象」を発生した後のPOFが磁界に対して歪を生じること(磁歪)を発見し、モード間干渉法を併用して高感度な磁界センサの実現に成功した。
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