研究課題/領域番号 |
17H04933
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
河合 慶有 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 講師 (90725631)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 自己治癒補修 / ひび割れ補修 / 漏水抑制 / バイオ複合材 / 鉄筋腐食抵抗性 / 酸素透過 / マイクロカプセル |
研究実績の概要 |
H29年度は,①微生物代謝により生じる貧酸素環境が,鋼材腐食抑制効果に与える影響の検討,②アルギン酸-枯草菌を用いたひび割れ補修グラウト材の開発に関して実験的検討を行った。 前者においては,枯草菌を練り混ぜたモルタル中に埋設した鉄筋の腐食性状について検討を行った。実験に使用したモルタル供試体は,曲げひび割れの有無,枯草菌の有無,塩分の有無をパラメータとして,健全なものを含め8ケースを検討対象とした。本検討により,曲げひび割れを有する場合であっても,枯草菌を練り混ぜた供試体においては鉄筋腐食の抑制効果が一定程度確認された。特に,自然電位は枯草菌を含まないものより貴な値を示し,腐食電流密度は相対的に小さい値を示した。さらに,曲げひび割れ部をアノード部とするマクロセル腐食が形成された場合においても,それ以外のカソード反応が抑制されることで腐食電流密度が小さくなることを示唆する結果が得られた。 後者においては,モルタルを用いて作製した円柱供試体にひび割れ幅0.5mm程度を目安として割裂ひび割れを導入し,ひび割れ閉塞効果の検討を行った。アルギン酸ナトリウムの濃度を調整することで適度な粘性を付与した枯草菌を含むグラウト材を作製し,ひび割れ面に塗布した。本研究で開発したグラウト材は,ひび割れ表面においてカルシウムイオンと反応しイオン架橋によりゲル皮膜を形成し,そのゲル皮膜中に微生物代謝を通じて炭酸カルシウムが析出されることを想定している。なお,好気性である枯草菌は代謝活性に酸素を消費するため,溶存酸素を断続的に供給するため塩水・水道水を用いて乾湿繰り返し作用下に曝露することとした。本検討結果により,ひび割れ中に形成されたゲル皮膜および炭酸カルシウムからなる析出物によりひび割れ(0.5mm程度)は完全に閉塞され,その後実施した透水試験においても明確な止水効果が得られることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度はカプセル材を用いた自己治癒補修材の検討を予定していたが,実験計画の順序を変更し,グラウト材による適用方法および練り混ぜ水としての使用した場合の鉄筋腐食に与える影響について第一段階の検討を実施した。3年間の研究計画のなかでは,実験の進捗状況は概ね順調に進捗していると考えている。特に,ひび割れ補修による止水効果や貧酸素環境に起因する腐食抑制効果を示す結果が得られており,H30年度に行う詳細検討に十分な基礎データを提供することができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
H30年度は,引き続きグラウト材による止水効果の持続性および物質透過抵抗性の向上について種々の劣化要因物質を対象として実験を実施する。また,アルギン酸のゲル皮膜および炭酸カルシウムの析出から形成されるバイオ複合材の構造分析および物質移動の観点から考察を加える。一方,カプセル材を用いた検討では混入量とひび割れ閉塞効果の関係について検討を行う。特に,供試体断面内に均一な分布が得られるカプセル混入方法・混入量と閉塞可能な最大ひび割れ深さの関係を求める。また,鉄筋腐食抑制効果の検討では,埋設した鉄筋を取り出し,表面形状を測定することでカソード・アノード部の面積比を求める。これにより,鉄筋腐食抑制効果を定量的に示すことを試みる。
|