本研究は,河川流況及び流域特性を考慮した河川におけるマイクロプラスチック(MP)の輸送モデルを開発するものである.本年度の研究実績は,主に3つである. 1. 過年度に江戸川野田橋で計測した横断面におけるMP濃度分布の代表性を確認するため,鶴見川新横浜大橋における横断方向と鉛直方向のMP濃度分布を計測して両者を比較した.横断方向のMP濃度分布は,江戸川では両岸が高く,鶴見川では流心が高い傾向があり,明瞭な共通点はみられなかった.一方,鉛直方向のMP濃度分布は,いずれの河川でも表層と低層で高く,中層で低い傾向を示していた.両者のデータに基づき,鉛直方向におけるMP濃度分布モデルを構築した. 2. 日本全国70河川90地点のMP濃度の計測結果に基づき,人口密度(流域面積に対する人口の割合)と市街地率(流域面積に対する市街地面積の割合)からMP濃度を推定する回帰モデルを作成し,降水・蒸発散・浸透を考慮した水収支解析に基づき,日本全国のMP輸送量マップを作成した.本研究成果は,国際学術雑誌Waterに掲載された. 3. 河川から海域へのプラスチック輸送量を把握する上で,将来的にMPの発生元であるマクロプラスチックの輸送量も把握する必要があることを踏まえて,マクロプラスチックの輸送量計測手法の開発を行った.本手法は,橋梁から鉛直方向に撮影した動画を解析して,河川表面上の浮遊ごみ面積と輸送速度(単位時間当たりにごみの移動量)を計測し,単位面積当たりのごみ質量を乗じることで河川浮遊ごみ輸送量を連続計測するものである.本研究成果は,国際学術雑誌Scientific Reportsに掲載された.現時点では,浮遊ごみの中からプラスチックのみを検出することはできないが,今後機械学習によるプラスチックの検出アルゴリズムを導入して,将来マクロプラスチックの輸送量モデルの開発につなげる.
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