研究課題/領域番号 |
17H04940
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
春日 郁朗 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20431794)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日和見病原細菌 / 再増殖 / 水道 / 給配水 |
研究実績の概要 |
給水末端の細菌再増殖の実態を評価するために、大学キャンパス内の給水栓等において調査を行った。十分に放水した水道水と、その後一晩滞留させた水道水をそれぞれ採水した。また、滞留後の水道水については、放水して経時的に水温、残留塩素、全菌数、従属栄養細菌数を分析した。調査の結果、滞留に伴って水温の上昇、残留塩素の低減・消失が生じると同時に、全菌数や従属栄養細菌数の増加が認められた。従属栄養細菌数については、水質管理目標設定項目を超過する給水栓も見られた。滞留後の放水によって、残留塩素の回復、全菌数及び従属栄養細菌数の減少が観察された。約数L放水することで元のレベルに戻ったことから、滞留に伴う水質変化と細菌再増殖は極めて局所的であることが明らかになった。 滞留後に再増殖した細菌群集構造を次世代シーケンシングで解析したところ、日和見病原細菌を含むMycobacterium属は全体の約1%未満、Legionella属は約0.2%未満、Pseudomonas属は約5%程度未満であった。従属栄養細菌としてR2A培地でコロニーを形成したものを単離したところ、次世代シーケンシングによって優占していた種類が必ずしも単離されるということはなく、培養法には大きなバイアスがあることが明らかになった。 また、近年、国内で罹患率の上昇が特に問題となっている非結核性抗酸菌(Mycobacterium属)について、定量PCRによる存在量の調査を行った。非結核性抗酸菌は、滞留に伴って再増殖する傾向を示したが、全細菌に占める割合(16S rRNA遺伝子コピー数ベース)は最大でも3%未満に過ぎないことが確認された。更に、肺非結核性抗酸菌症の主因であるM. aviumの存在状況を調査したところ、ほぼすべての試料で定量下限未満であり、再増殖に起因するリスクは低いことが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
給水末端での実態調査は順調に進んでいる。定量PCRについては、Mycobacterium属及びM. aviumの分析を実施したが、他の対象細菌についても定量系は確立済みであり、進捗に遅滞はない。 次世代シーケンシングの結果から、日和見病原細菌の再増殖リスクはそれほど顕著ではないことが推察されたため、日和見病原細菌の選択培養は一旦見送り、給水末端における実態調査の回数を増やしてデータの蓄積に重点を置いた。 再増殖後に優占する細菌群の単離は実施したが、次世代シーケンシングの結果と培養法の結果には齟齬があることが明らかになりつつある。再増殖する代表的な細菌群の特定とその単離については、次年度以降も更なる検討が必要と判断し、単離株の生理特性の解析は保留した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に続き、大学キャンパス内の給水末端や都内の宅内給水栓を対象として、水道水中で再増殖する日和見病原細菌を含む細菌群の実態調査を行い、データの拡充を進める。特に、人為的に滞留時間を制御することで、滞留時間の長短が、水質、細菌群集構造、日和見病原細菌の検出率に及ぼす影響を評価する。昨年度のデータも含めて解析し、研究発表を行う。 どのような種類の日和見病原細菌がどのようなプロセスで水道給配水系に流入しうるかを把握するために、実規模の浄水場の各工程水を採水し、日和見病原細菌の生残に関わる重要管理点を評価する。浄水場における調査と給水末端での調査を照合することで、日和見病原細菌が給配水系でどのような挙動を示しているのかを探る。 日和見病原細菌を含む細菌群の再増殖機構を解明する因子として、再増殖を支える増殖基質の探索に着手する。滞留前の水道水を採水して細菌再増殖現象を再現し、再増殖前後の細菌群集、溶存有機物組成を比較する。固相抽出した溶存有機物を電場型フーリエ変換質量分析計で解析して分子式の推定を行う。細菌再増殖後にピーク強度が減少している分子イオンを、生分解性有機物とみなして抽出する。また、給水管素材などから溶出する微量有機物が細菌再増殖に及ぼす影響を調査するため、実際に使用されている管路素材を用いた溶出実験を行い、溶出する溶存有機物組成の特徴を電場型フーリエ変換質量分析計で解析する。溶出成分を含む試料に細菌を植種して、再増殖ポテンシャルを明らかにする。
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