研究課題/領域番号 |
17H04944
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
松井 良太 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (00624397)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 鋼柱部材 / 座屈性状 / 数値解析 / 載荷実験 / 履歴モデル / 終局耐震性能 |
研究実績の概要 |
本年度は,軸力比の高い鋼柱部材の耐力および累積変形性能の実験的な検証に先立ち,H形断面および角形断面部材を対象として,東京工業大学が所有している大規模クラスター型コンピュータTSUBAME2.5に組み込まれている汎用有限要素プログラムABAQUSを用いて分析した。申請者が提案してきたファイバー要素で断面を構成し部材の局部座屈を表現した一次元ファイバーモデルが,鋼柱部材の耐力および累積変形性能を評価する上で有用であることを確認した。具体的に得られた成果を以下に列記する。 H形断面部材を対象とした検討では,一次元ファイバーモデルでは軸方向を奇数個の要素で分割すれば全体曲げ座屈および局部座屈を精度よく再現できることを確認した。これまで歪振幅拡大係数を用いて表現していた局部座屈部において集中する塑性歪を,一次元ファイバーモデルの要素から得られる値を用いて評価でき,局部座屈を伴う全体曲げ座屈を生じる部材の累積変形性能を推定できることを確認した。また,実大のブレース付ラーメン骨組を対象に一次元ファイバーモデルを適用し,高い軸力比となる鋼柱部材の局部座屈挙動に関する考慮の是非で骨組の耐震性能に差異が生じることを確認した。 角形断面部材を対象とした検討では,径厚比が20から40程度で鋼柱部材の幅と長さ比が2から8程度であれば,局部座屈の半波長が断面幅と同程度となることを有限要素解析より明らかにした。この長さに対応するよう,鋼柱部材を一次元ファイバーモデルの要素で分割すれば,他の研究者が提案しているマルチスプリングモデルと同等の精度で履歴挙動を追跡できることを確認した。 以上の成果を踏まえ,H形断面鋼柱部材の耐力と累積変形性能を検証する模型載荷実験のための試験体および治具製作を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,次年度から開始を予定していた高い軸力比となる鋼柱部材の模型載荷実験の前段階となる数値解析的分析について順調に成果を上げることができた。載荷実験を実施するうえで必要となる,試験体および治具の製作と,高い軸力を試験体に加力するための試験機のセットアップも完了している。 なお,平成29年度当初に予定していたMatthew Eatherton准教授との共同研究については協議した結果,規模を縮小し模型載荷実験の遂行に注力することとした。 上記のように一部計画に遅れが見られるが,平成31年度で実施予定であった骨組に一次元ファイバーモデルを適用した場合の分析について,あらかじめ一部の検討を進めており,総合的に現段階では研究計画は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度では,平成29年度に製作したH形断面の鋼柱部材試験体の模型載荷実験を遂行する。 東京工業大学緑が丘2号館に設置しているMTS社製の載荷フレームを用い,利用可能なアクチュエータの能力の制限より,引張降伏軸力に対する軸力比を0.4~0.8まで変化させることができる実大の1/6程度の断面を有する試験体を選定した。主として局部座屈との相関性の高い幅厚比と載荷方向を変化させた試験体を12体用意し,一次元部材モデルの精度に影響を与える塑性化後の局部座屈半波長について調査する。また,1/6に縮小した試験体のスケール効果について分析するため,別途1/3に縮小した試験体を用意し,軸力を作用させない状態で終局曲げ耐力等を比較することで,1/6の試験体で得られた実験結果の妥当性について検証する。 載荷実験の実行に当たっては,Virginia Tech,The Charles E. Via, Jr. Department of Civil and Environmental EngineeringのMatthew Eatherton准教授を東京工業大学まで招聘し,載荷実験の仕様や計画について協議する。なお,以上の模型載荷実験や,数値解析的な分析に当たっては,引き続き東京工業大学竹内徹教授および竹内徹研究室に所属している修士課程,学士課程の学生にも協力を要請する 平成29年度までに得られた成果を国内外の学会大会にて発表し,他機関も含めた研究者との意見交換を行い,現状における達成度と未解決な点について明快にしていく予定である。成果について整理が完了した時点で査読付きの学術論文への投稿を試み,論文の登載を目指す。
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