研究課題
本研究では,TiS6八面体の稜共有ネットワーク構造を有する物質に着目して,高性能なn型熱電物質を開発すると共に,優れた電気的特性(高い出力因子)を有する物質の設計指針を提案することを目的とする。本年度はまず,昨年度合成した擬一次元物質のSn1.2Ti0.8S3の電子構造を調べた。次に,硫化スピネルCu2Ti4S8に着目し,キャリア濃度と結晶構造の制御により熱電性能の向上を目指した。また,作製した試料の電子構造を調べた。以下に成果の概要を示す。(1)Sn1.2Ti0.8S3の電気抵抗を25 Kから670 Kまで測定し,半導体的な温度依存性を確認した。この振る舞いは,研究協力者の第一原理計算から得られた電子構造と符合した。(2)Cu2-xTi4S8においてxを0.75まで増やす(Cuを欠損させる)とキャリア濃度が低下し,出力因子と性能指数ZTが増大した。670 KでのZTは最大で0.07であった。磁化測定から,Cuを欠損させても系は非磁性のままであること,第一原理計算から,電子構造の変化はリジッドバンド的であることが判った。(3)さらにCuを減らすと,Cu2-xTi4.5S8(x = 1, 1.25)というTiが過剰なスピネル類似相が安定化することを見出した。この系では,過剰なTiが伝導帯に電子を供給するために,キャリア濃度が高かった。結果として,ゼーベック係数が低いために,670 KでのZTは0.03に留まった。(4)スピネル構造(立方晶)とは異なる菱面体晶のCu2Ti4S8を合成した。実際の組成はCu2.28Ti3.60S8であり,化学量論組成よりもTiが不足していた。そのためにキャリア濃度が低く,出力因子が高いために,670 KでのZTは0.2に達した。この菱面体晶の系では,立方晶と同様に,チタン-硫黄ネットワークがn型の電気伝導を担うことを第一原理計算から示した。
2: おおむね順調に進展している
前年度(初年度)は,硫化スピネルCu2CoTi3S8,擬一次元物質Sn1.2Ti0.8S3,およびミスフィット層状物質(SnS)1.2(TiS2)n(n=1,2)のキャリア濃度と電子構造の制御を行った。本年度は,新たにCu2Ti4S8に着目し,キャリア濃度および結晶構造の制御を行った。その結果,試料合成の過程で予想外に,スピネル類似相のCu2-xTi4.5S8(x = 1, 1.25)を見出すことができた。また,菱面体晶のCu2Ti4S8(Cu2.28Ti3.60S8)が,硫化スピネルCu2CoTi3S8と並んで,これらのチタン-硫黄系の中で最大のZT=0.2を670 Kで示すことが判った。この菱面体晶の試料は比較的低温かつ高い圧力の下で焼結する必要があったが,この課題は前年度に用いた焼結法を適用することにより解決された。これらの系に対して電気抵抗とゼーベック係数および磁化の測定と研究協力者の第一原理計算によって電子構造を系統的に調べ,いずれの系においてもチタン-硫黄ネットワークがn型の電気伝導に寄与していることを確認してきた。
これまでに研究対象とした物質の中で,硫化スピネルはキャリア濃度の制御が比較的容易であり,性能をさらに高められる可能性がある。しかしながら,キャリア濃度を下げるためにCuを欠損させるとTiが過剰なスピネル類似相が安定化するため,この方法では限界があることが判った。そこで今後は,Tiを異なる価数の元素で置き換える方法を検討する。また,性能向上には熱伝導率の低減が必要があるので,結晶格子を形成するSの一部を同族元素のSeなどで置き換えて乱れを導入する方法を採る。
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Inorganic Chemistry
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