本研究では、構造用金属材料において加工誘起マルテンサイト変態に及ぼす母相内の格子欠陥の影響とその制御について、主に実験的に明らかにすることを目的としている。 2019年度は、これまで主に研究に用いてきた生体用Co-Cr-Mo合金、チタン合金に加えて、加工誘起fcc → hcpマルテンサイト変態を示す準安定ハイエントロピー合金についても研究を行った。同一組成において転位組織を変化させた初期組織(fcc母相)を作製した。格子欠陥の密度、分布をTEMを用いて観察するとともに、J-PARCのiMATERIA (BL20)で中性子回折実験を行い、Convolutional Multiple Whole Profile (CMWP)法に基づくラインプロファイル解析により定量化した。また、チャンバー内に設置した引張試験機を用いて塑性変形中のその場中性子回折測定を行い、異なるひずみ量において転位組織を前述のCMWP法、相分率・結晶方位分布(集合組織)をRietveld Texture Analysis (RTA)によりそれぞれ定量解析することで、加工誘起マルテンサイト変態と転位組織発達のダイナミクスを明らかにした。なお、2019年度はJ-PARCの設備トラブルによりビームタイムが2020年1月および3月に後ろ倒しになり、2020年5月時点で全てのデータ解析が完了していないが、初期組織の格子欠陥と相変態・塑性変形の関係についてこれまでにない定量的なデータを蓄積することに成功している。 一方、ハイエントロピー合金のその場中性子回折測定、さらにはCMWP、RTAを用いた組織定量解析はこれまで研究例が少なく、測定・解析手法の面からも重要な経験・知見を蓄積することができた。HEAの塑性変形中のその場中性子測定データの解析では構成相の弾性特性が解析精度の面で極めて重要であることを確認した。
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