研究課題/領域番号 |
17H04964
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉山 弘和 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70701340)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 医薬品製造 / バイオ医薬品 / 注射剤 / プロセス設計 / モデル化 / 感度解析 / シングルユース / 多目的意思決定 |
研究実績の概要 |
H30年度も前年度より引き続きバイオ医薬品注射剤の製造プロセス(薬液調製・ろ過滅菌・充填・検査)を対象に研究を進め、成果を得た。メインとして取り組んだのは「シングルユース・マルチユースを選択肢とするプロセス設計手法の開発」である。シングルユース技術は、樹脂製の使い捨て装置技術であり、ステンレス製装置を洗浄滅菌して使う従来のマルチユース技術に替わるものとして位置づけられている。前年度までの研究で、品目数や需要量が与えられたときに、充填工程について選択すべき技術を出力するモデルを構築した。本年度は、需要や生産パターン、さらにはプロセス入力値の変化に対して、出力結果がどのように変化するかを追う感度解析を実施した。その結果、各技術の適した領域のマッピングや、感度の高い入力パラメータを得ることができた。 次年度以降予定しているツール実装に関しても予備的検討を開始した。既に論文発表したアルゴリズムをソフトウェア化するにあたり、産業の専門家からソフトへの要求事項を抽出した。その結果、Web上で動くオンラインソフトとしてまとめることが適切との結論を得た。既に論文公開しているアルゴリズムについてソフトを作成し、プロトタイプ版を学会発表した。 この他、「連続・バッチ生産技術の選択支援」「データ駆動型プロセス改善」「ヒトiPS細胞の充填・凍結プロセス設計」のようなテーマについて、数理モデル化や手法構築について成果を得た。一部は、次年度のツール実装に取り込む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題はおおむね順調に推移している。その理由として以下の点があげられる。 (1)当初の計画通りにバイオ医薬品、とりわけ注射剤の製造に焦点を当て、オリジナリティの高いプロセスモデルが構築できたこと。「シングルユース・マルチユースを選択肢とするプロセス設計手法の開発」では、前年度までに構築したモデルに対して感度解析・不確実性分析を実施し、信頼性を高めることができた。 (2)学会発表・論文発表等の成果が得られていること。H30年度は原著論文8報、査読付きプロシーディングス6報、総合解説5報、国際学会発表13件(うちキーノート1件、招待講演1件)、国内学会発表8件、国内招待講演6件の成果を得た。原著論文については現在投稿中のものが複数ある。 (3)ツール実装に向けた環境を整備できたこと。「シングルユース・マルチユースの選択」については、ツールの要件抽出、計算機環境の整備、プロトタイプ作成までが完了した。次年度以降、不足点を補いつつ、実装に向けて動き出すことができる。さらに、「連続・バッチ生産技術の選択支援」のようなテーマについても、同様にツール実装に進めることができる。
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今後の研究の推進方策 |
4年間の全研究期間では以下の3つを遂行項目として設定した。項目A. 要件定義:設計手法がカバーすべき設計段階と、各段階の目的関数、制約条件を定める。項目B. 数理モデル構築:医薬品の固有性を含む単位操作・評価・意思決定の数理モデルを構築する。項目C.体系化とツール実装:新しい設計業務を定義し、設計用プロセスシミュレータを開発する。 今後の推進方策としては、項目Bを引き続き進めつつ、項目Cに展開する。項目Bについては、これまで取り組んできたバイオ医薬品製造に加えて、本年度から低分子医薬品やiPS細胞についても検討する。特に取り組みたい新テーマの一つに、iPS細胞の保存のための充填・凍結・解凍プロセスがある。これまで、物理現象を考慮した理論的モデルを構築してきたが、実験データを検証に用いることで、モデルの信頼性向上を図る。実験を行う研究室と協力関係を構築しており、必要データを取得する環境は整っている。また、研究のマルチスケールな展開、具体的には、分子・細胞を対象とするミクロレベルの分析から、「医療とコスト」のような社会的側面を検討するマクロレベルの分析を同時に行えるような発展を考える。そのため、経済性や品質に加えて、供給安定や環境影響のような多目的評価を実施するための方法も検討する。 項目Cについては、オンラインソフトウェア化に挑戦する。「シングルユース・マルチユースの選択」「連続・バッチ生産技術の選択支援」については、不足点を補いつつ、実装に向けて動き出す。本年度はプログラミングの専門家に依頼して実用に耐えられるレベルに発展させる。設計業務のモデル化について検討する。例えば、フローチャートやアクティビティモデル記述手法のようなシステム的手法を用いながら、構築した単位操作・評価モデルを用いた設計の道筋を定義し、プロセス設計のあるべき姿の提案を試みる。
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